「北中だったら、森田カナ知ってる？」

初対面の僕に、泣けないなんて思わず告白してしまった恥ずかしさを払拭するように、詩織は明るい声を出した。

森田カナ……聞き覚えのある名前だった。

「……ああ！うん。確か、テニス部だった？」

詩織との会話を続けたくて、必死に記憶を辿る。

「そう！同じテニス部だったよ」

「そっか、テニス部だったんだ」

華奢で色白の、今の詩織からは想像できないが、少し前までは日に焼けた笑顔でボールを追いかけていたのだろう。

詩織は目を細め、その頃のことを思い出しているようだった。

「今度カナに春太くんのこと聞いてみよう」

「えっ？たぶん僕のことは覚えてないよ」

同じクラスになったことがあると記憶しているが、彼女とまともに話をした覚えはない。

それに、僕は目立つ方でもなかったし。

「どうして？春太くんは覚えていたじゃん」

「……まあ、そうだけど」

彼女は割と目立つ存在だったから記憶を掘り起こせば発掘できたわけであって……まあ、もういいや。

森田さんの記憶に少しでも僕が残っていることに期待しよう。