さすがに当日の今日は落ち着かなくて、黒板に書く文字が曲がってしまったり給食のお椀をこぼしてしまったりして児童に笑われた。

児童たちが下校した後も、この日ばかりは仕事も急ピッチで終わらせてバタバタとあの公園へと向かった。

焦る気持ちも緊張感も半端じゃなかったが、もしかして断わられるんじゃないか……そんな不安は不思議となかった。

それは言うまでもなく、これまでの7年間僕らが積み上げてきた形の見えない何か……そうだな、簡単に言えば信頼みたいなものなのだろう。

そんな儚くも確信的な感情を持ちながら見慣れた公園の階段を登る。

登りきったそこにはまだ詩織の姿はなかった。

20歳の誕生日に詩織から貰った腕時計に目をやると、待ち合わせの時間までにはまだ15分ほどあった。

詩織は仕事の都合で待ち合わせのギリギリになるだろうと言っていたから、まだ最後の心の準備をする時間は残されているようだった。

僕は少しずつ暖かくなっていく春の空気を胸いっぱいに吸い込み、深く、深く吐き出した。そして灯ったばかりの街灯にボンヤリと浮かぶ満開のユキヤナギの枝を手に取る。

それはズッシリと手に重かった。こんな小さな植物のどこに、重たいほどの花を咲かせる力があるのだろう。

どうか、僕に少しの勇気を分けてほしい。