お母さんには、急遽なべっちと出ることになったと言って、手元にあったニット帽と手袋、マフラーでぐるぐる巻きにして、あたしは外に出た。


「ご、ごめん…っ」


その所要時間は2分弱だったけど、外に出た時の余りの寒さに、謝罪の言葉が口から出ていた。


「………すっぴんじゃないじゃん」

「ま、まぁね!おばあちゃん達来てるからね!」


でも手抜きのメイクなんだよね。

こんなことならもっとちゃんと…。


「ばーちゃん達いるのに、いいの?出てきて」

「あ、いいのいいの。明日もいるから」

「ふーん」


安堂くんが相槌を打つと、二人の間から会話がなくなった。

そうだ、よくよく考えてみたら、会うの久しぶりなんだ。

何だか妙に照れ臭くなって、もじもじとマフラーをいじった。


「行かない?」


ふいに、安堂くんが口を開いた。


「え…?」

「初詣。それを誘おうと思って来た」


安堂くんのあまりに予想外な発言に、目を見開く。

二人の口からは、真っ白な吐息が溢れている。


「……来た…?…誘いに…?」


信じられなくて、言葉のまま聞き返した。

安堂くんはコクリと頷く。


「え…だって、……わざわざ家の前まで…?もし、あたしが家にいなかったら…」

「親友の“なべっち”には彼氏がいるから、絶対いるだろうって思ってた」

「……“絶対”?」


低い声で聞き返す。

それでも安堂くんはひょうひょうとした顔で頷いた。


「“絶対”」