「え?あ……うん」

「………そう」


当たり前のことなのに、なんだか悪いことをしている気分だ。

その背中が、あまりに寂しそうに見える。


「あ、あ、そうだっ!お家、安堂くんだけなの!?」


何を慌てることもないはずなのに、口早に訊ねた。


「…フツー、家に入る時に聞かない?」

「玄関開けてたら倒れてたのはダレ?」

「……親父は昨日から出張。あとは誰もいない」

「――――、」


安堂くんの言葉に、なべっちが言っていた話を思い出した。


『安堂くん、お母さんいないんだよ?』


「そ、そっか…。お父さんいつ帰ってくるの?」

「明後日」

「えっ!?」


この風邪で、この高熱で、安堂くんは今夜も一人!?

ただでさえ寂しがりやの甘えん坊なのに、こんな弱ってる時に一人ぼっちだなんて……!


(この人絶対、消えて失くなっちゃう…!)


寂しそうな背中が、ますます寂しそうに見えた。


「…早く帰ったら?」


そう言われても、逆に帰れなくなった。


「俺はもうヘーキだよ。寝てれば治るよ。こんな熱」

「38度もあるのに?」

「あるのに」


安堂くんは、枕に頬をつけてそっぽを向いている。

めちゃくちゃ辛そうな咳、してるくせに―――。

と、そこでポケットに入れていた携帯が鳴った。


「……鳴ってるよ」

「知ってるよ!」


ベーッと安堂くんに舌を出して、あたしは部屋から出た。

ひんやりと冷たい廊下で電話を取る。


「もしもし」

『あ、知枝里~!?』


電話の相手は、なべっち。


どうしよう…!

今から家に行くって言われても、あたしは今家にいない!