「………………………、」


この男があたしの家に来たのが、昨日のお昼の11時過ぎ。

そして何故か一緒に我が家でご飯を食べて、帰って行ったのが1時過ぎ。

それから一夜明け、ただ今の時刻お昼の3時過ぎまで何も口にしていないと言う。


「……………。」


来て早々、これまただだっ広いシステムキッチンを借りて、あたしはうどんを作っていた。


『なんで何も食べてないの』

と聞くと、

『家に何もなかった』

と言った。

『……うどんにウインナー入れていい?』

と聞くと、怪訝そうな顔をしつつも、コクッと頷いた。

……弱った安堂くんは、やはり可愛い。


部屋に強制送還させた安堂くんは、部屋のドアが開くとこちらに小さく顔を向けた。

額が熱いらしい。

腕を額に乗せて、苦しそうな顔で横たわっている。


「……出来たよ」


うどんの鍋を持って入ると、虫の鳴き声ほどの小さな声で、安堂くんは「うん」と言った。


(……だから、あの風邪菌は極悪だって言ったのに)


ベッドに腰掛ける安堂くんに、あたしはうどんを持って近づいた。

…これが男の子の部屋、か。

初めて入る空間。ほとんど物が置かれていない。

あるのは馬鹿でかいテレビと、デスクトップ型のまたまたでかいパソコンと…。

机の上に無造作に置かれた参考書…。


「そこでいいよ」


キョロキョロしているのは、どこにうどんを置けばいいか迷っていると思ったらしい。

観察していた自分にハッとして、あたしは足を急がせた。


「う、うん!」


うどんを作っている時から思っていた。

昨日、うちにあげたのが恥ずかしくなるくらい広い家。

そして綺麗な家。

生活感がないくらい、家の中は整然と、片付けられていた。


「………なんでウインナー…?」


熱に浮された顔で、安堂くんは丸々一本入れられたウインナーを見つめていた。


「……それが結構おいしーんだよ」


はむはむと、安堂くんが食べはじめた。