「櫂くんまた寝てんの?翔(しょう)さんと全然違うよねー。

まー仕方ないか、学校終わって毎日遅くまでサロンワークだもんね」

授業中も昼休みも寝ている櫂に話かけるのは

同じ美容科のクラスメイトの松井さくら

そんなに背は高くないがすらっと細身の綺麗な女の子


この学校に美容科ができたのは今年。

これまで理容科しかなくて床屋さんをたくさん輩出してきた

伝統ある専門学校だ。

翔と櫂の父、透(とおる)も同じ専門学校の卒業だ。

櫂は兄、翔と父、透と同じ学校に入学した。


2個違いの翔は父と同じ理容科で先生たちからの評判も良く

全国大会でも入賞するなどの活躍をしていたから

櫂の一個上の先輩たちからも凄い先輩という目線で見られていた。


その噂でか櫂のクラスメイトたちも

「櫂くんのお兄さんは凄い人」

という人物像が出来上がってしまっていた。

櫂にとってはやりづらくて仕方なかった。


専門学校を卒業して透のコネで今はその道では有名な都内の床屋さんに就職していた。


透は櫂にも同じように、やるなら床屋さんにと言っていたが

櫂はここで初めて親に逆らって美容師になることを決意した。


そしてもう1つ翔と違うところがあった。

普通なら学校を卒業してから就職するのが一般的なのだが

櫂は学校に通いながら就職もしていた。

それがCarinaだった。



透や母、奈々(なな)にも反対されたが

自分で就職先を探してきて自分で志願して

サロンワークと通学を両立するということで両親を納得させていた。