櫂の家はすぐ近くにあった。歩いて10分くらいのところだ。

少し歩いて帰る頃に酔いもちょうど良くなるものだが、今日の櫂は違った。

酔いがあまりさめないまま家に着いた。

家までの道のり、会話はほとんどなかった。

「着いたよー、ここの3階」

「結構近いんだね、櫂くんの家で正解だった」


正解がどうかはわからない。

付き合ってもいない男女が一つ屋根の下で寝ようとしているのだから。


途中寄ったコンビニでさくらは歯ブラシを買っていた。

櫂は家に入るとすぐにベッドに倒れこんだ。

「ねっ、歯磨きしてくる。
 あと楽な服、なんか借りていい?」

「はーい、その辺にかかってるやつだったらなんでも使っていいよー」



そこからの記憶は櫂に残っていなかった。

いつもならクーラーを入れそのままシャワーを浴びほぼ裸のような格好で寝る。

しかし今日の櫂にはクーラーを入れてそのまま眠る体力しか残っていなかった。


どれくらい眠っただろう?

クーラーの冷気で気持ち良く眠れていた

櫂は陽が高くなるまで起きなかった。

それはさくらも一緒だった。



寝ぼけ眼で櫂の目に飛び込んできたのは

キスしてもおかしくない距離にいるさくらだった。


しかしさくらの寝顔を見て何かホッとする気持ちもあった。

それと同時に少しの心の傷みを感じた。

久しぶりに感じたのは確かに櫂の恋心だった。