「わー遅い〜、でも来てくれたね!」

仕事終わりということもあって、待ち合わせ場所は櫂の最寄駅だった。

待ち合わせの時間は9時。

櫂が現れたのは9時半をとうに過ぎていた。

「わりぃ、最後のお客さんが思いの外長引いちゃってさ」

「まぁ仕方ないよねー」

笑顔でさくらが迎えてくれる。

いやでも夏の暑さを感じずにはいられない中

さくらの笑顔だけはなんとも涼しげな感じだった。

「今日はどこに連れってくれるのー?」

やはりいつになく女の子の声になっているさくら。

待っていたことを怒ることもなく質問を投げかけてくる。

「今日忙しかったのー?」

「月曜だからそんなでもなかったけど、夕方から少しね」

ニコニコして弾んださくらの横顔を見ていると

自分も少し涼しくなる気がした。

櫂がいつも行っている居酒屋に着いた。

お世辞にも綺麗と言えるような場所ではなく

女性と初めてのデートで行くような場所でもない。

安藤泰(あんどうやすし)みんなからはやっさんと呼ばれている。

やっさんが個人経営している居酒屋だった。

それでもさくらは櫂のプライベートゾーンに初めて

入ることができたような気がして嬉しかった。

「おっ、櫂くん今日は女の子連れてんのかい?」

「専門の友達っすよ、とりあえず生と
 さくら、何飲む?」

「あっ私、カシオレで!」

「じゃあそれで!やっさん、座敷行っていいですか?」

「はいよー」