「なんで?」

「え?」

「なんで、そう言える? オレが傷つこうが死のうが、あんたには何の関係もない」

「………」


レン王子の口から出た言葉は、どこまでも虚ろで空っぽ。冷たさという温度すら抜け落ちて、ただひたすら虚無感を感じさせる。


「オレが生きていようと死のうとも、世界は何一つ変わらない……何一つ」


その虚ろな響きはこちらまで引きずり込まれそうになる。だけど、私はいけない! と自分を強く持つ為に頭を振る。


そっと、レン王子の手に自分の手のひらを重ねるけれど。彼の手の冷たさに涙が出そうになった。


この人を、暖めてあげたい。不意にそんな欲求が出てきて、衝動的に彼の肩に腕を回す。


そっと、傷に配慮しながら彼を前から抱きしめた。


「……たしかに、誰かが死んでも世界は変わりません。私も……10年前に親を亡くしましたからよく知ってます」


自分がどれだけ悲しくて辛くて大変でも、喪失からの日常の変化があっても。他の大概の人の生活は変わらない。


どうして、お母さんもお父さんも死んだのに。風は同じように吹くんだろう。雨は降るんだろう。日は変わるんだろう……太陽は昇り、一日が始まって起きてからご飯を食べて自分が果たす役割へ向かう。


私はこんなにも辛いのに、どうして? その虚無感を拭い去るにはしばらく掛かったけれど。私には家族がいたから、いつの間にか忘れられた。


この人は、お母様が亡くなった時のそれに囚われたまま進んで居ないのかもしれない。