午後の診療は、患者さんの数としてはいつもどおりだったけど、初診の患者さんが多かった。
初診の患者さんには、お会計のときに、担当医の診療予定表について説明している。
「本日の診察は保坂先生でしたけど、次回は別の先生を希望されても問題ありませんので」
内心では「次回も保坂先生を!どうぞ御贔屓に!」と唱えつつ、マニュアルどおりに。
けれども、私の念の強さは意外と侮りがたかった。
「今日診ていただいた先生がいいです」
「えっ」
思わず嬉しい悲鳴がもれる。
「丁寧に話を聞いて下さる先生だったので」
(ですよね! ですよね!!)
「では、次回いらいしたときは受付の際に“保坂先生希望”と仰ってください」
「わかりました」
嬉しすぎてつい“保坂先生希望”のとこだけ、下線つきの太字みたいに強調してしまった。
もうもうもう、このことを早く伝えたい。
《あとでお話があります》って、話があるのは私のほうです。
本日の診療が無事終了してスタッフたちが退勤していく中、麗華先生と保坂先生は診察室に残ったまま。
先生方は午後の分のカルテの整理があるので、いつもこんな感じになる。
私は彼を待ちながら、片付け物をしたり、気になったところを掃除したり。
「清水さーん、働いた分は残業つけてくれて大丈夫だからねー。いつも助かってるー」
「ありがとうございまーす」
診察室から飛んできた麗華先生の声に、待合室の掃除をしながら思わずほっこりする。
クリニックで大切なのは、安全と清潔と快適さ。
何よりきちんと手をかけて設えられた空間は居心地がいい。
当然といえば当然だけれど、当たり前をきちんと大切にする麗華先生をやっぱり尊敬する。
程なくして、帰り支度をした麗華先生が診察室のほうから出てきた。
「お疲れ。そろそろアキもあがる頃だと思うから。明日もまたよろしくね」
「はい。お疲れ様でした」
麗華先生の笑顔に癒されつつ、その後ろ姿を見送ったあとは――。
(さて、と……)
待合室の照明を最小限に落としてから診察室へ。
PCの画面を真剣に見つめる彼に、少し離れたところから遠慮がちに声をかける。
「お疲れ様です」
彼は顔を上げてこちらを見ると、穏やかに微笑んだ。
「お疲れ様」
「麗華先生はそろそろ上がる頃って仰ってましたけど」
「ああ、ちょうどけりがついたところ」
「ならよかったです」
安堵しながら、私はいてもたってもいられなくて、いそいそと彼のそばへ歩み寄った。
「あのね、初診の患者さんなんですけどね、次も保坂先生に診て欲しいって方がいらっしゃって」
やや興奮気味に話す私を、彼は椅子にかけたまま見上げていたのだけど――。
「なんかね、丁寧に話を聞いてくださる先生だった、って。私もう嬉しくて。“ですよね!”っていう脳内の声、激しくダダ漏れてたかもしれ――」
「反則です」
(えっ……)
彼は私が話し終えるのを待たずに立ち上がると、正面から抱きしめた。
「えっ、と……」
「その笑顔は反則だって言ってるの」
初診の患者さんには、お会計のときに、担当医の診療予定表について説明している。
「本日の診察は保坂先生でしたけど、次回は別の先生を希望されても問題ありませんので」
内心では「次回も保坂先生を!どうぞ御贔屓に!」と唱えつつ、マニュアルどおりに。
けれども、私の念の強さは意外と侮りがたかった。
「今日診ていただいた先生がいいです」
「えっ」
思わず嬉しい悲鳴がもれる。
「丁寧に話を聞いて下さる先生だったので」
(ですよね! ですよね!!)
「では、次回いらいしたときは受付の際に“保坂先生希望”と仰ってください」
「わかりました」
嬉しすぎてつい“保坂先生希望”のとこだけ、下線つきの太字みたいに強調してしまった。
もうもうもう、このことを早く伝えたい。
《あとでお話があります》って、話があるのは私のほうです。
本日の診療が無事終了してスタッフたちが退勤していく中、麗華先生と保坂先生は診察室に残ったまま。
先生方は午後の分のカルテの整理があるので、いつもこんな感じになる。
私は彼を待ちながら、片付け物をしたり、気になったところを掃除したり。
「清水さーん、働いた分は残業つけてくれて大丈夫だからねー。いつも助かってるー」
「ありがとうございまーす」
診察室から飛んできた麗華先生の声に、待合室の掃除をしながら思わずほっこりする。
クリニックで大切なのは、安全と清潔と快適さ。
何よりきちんと手をかけて設えられた空間は居心地がいい。
当然といえば当然だけれど、当たり前をきちんと大切にする麗華先生をやっぱり尊敬する。
程なくして、帰り支度をした麗華先生が診察室のほうから出てきた。
「お疲れ。そろそろアキもあがる頃だと思うから。明日もまたよろしくね」
「はい。お疲れ様でした」
麗華先生の笑顔に癒されつつ、その後ろ姿を見送ったあとは――。
(さて、と……)
待合室の照明を最小限に落としてから診察室へ。
PCの画面を真剣に見つめる彼に、少し離れたところから遠慮がちに声をかける。
「お疲れ様です」
彼は顔を上げてこちらを見ると、穏やかに微笑んだ。
「お疲れ様」
「麗華先生はそろそろ上がる頃って仰ってましたけど」
「ああ、ちょうどけりがついたところ」
「ならよかったです」
安堵しながら、私はいてもたってもいられなくて、いそいそと彼のそばへ歩み寄った。
「あのね、初診の患者さんなんですけどね、次も保坂先生に診て欲しいって方がいらっしゃって」
やや興奮気味に話す私を、彼は椅子にかけたまま見上げていたのだけど――。
「なんかね、丁寧に話を聞いてくださる先生だった、って。私もう嬉しくて。“ですよね!”っていう脳内の声、激しくダダ漏れてたかもしれ――」
「反則です」
(えっ……)
彼は私が話し終えるのを待たずに立ち上がると、正面から抱きしめた。
「えっ、と……」
「その笑顔は反則だって言ってるの」