甘い汗をかいたあとの、ぬるい眠り。

結局、本当に“魅惑の二度寝”をしてしまった。

それでも“起きたら午後でした”なんてことにはならなかったので、私たちは朝昼ご飯をさっと済ませて、予定どおり出かけることにした。

いそいそと車に乗り込んで、いざいざ出発。

「せっかくだから、ちょっと遠くのホームセンターに行ってみたいと思って」

「ひょっとして、すっごく大きな店舗だったりします?」

「うん。ウチの近くのホームセンターが3つ合体したみたいな超大型店舗らしいよ」

「それはすごい!」

「下道で行けないこともないけど、高速を使って行こう。早めに行って帰って来られるのに越したことはないし」

「わくわく感高まりますね!」

毎日のように助手席に乗せてもらっているけれど、休日のドライブは特別だもの。

お目当てのホームセンターは、想像以上の巨大さだった。

日曜大工というよりは施工、園芸というよりは造園、とにかくプロ仕様の豊富な品揃えに驚くばかり。

おまけに、フードコートを併設した大型スーパーまで店を構えていた。

「せっかくだから全部見てまわりたいところだが……」

「今日のところは我慢してまた今度、ですね」

私たちはおびただしい数の商品に圧倒されながら、目的の商品を目指した。

「千佳さんは植物とか育てたことある?」

「それが、ぜんぜん……」

「実は僕も」

顔を見合わせ苦笑い。

「であれば、とにかく育てやすいものを探そうか」

「ですね」

そうして見て回って、私たちはあまり迷わずいくつかの植物に決めた。

一つは、場所をとらず丈夫で育てやすく、食材としても使いやすいということから“バジル”を。

そして、他にも食べられるものとして“ミニトマト”がいいと意見は一致したのだけれど――。

「僕は譲らないよ」

「いや、でもですねっ」

思いがけず種類で揉める始末。

「僕にはもう“チカ”しかないから」

(この人、わざと言ってるな……)

まさか“チカ”という種類のミニトマトがあるなんて。

字は“千果”と書くから違うのだけど。

「僕は絶対“チカ”ちゃんを連れて帰ると決めているから」

さっきから「チカ」だの「チカちゃん」だの。

トマトの話なのに、勝手に意識して気恥ずかしくなってるなんて、自分で自分が恥ずかしい!

「私は“アイコ”ちゃんがいいかと。ほら、こちらは黄色がありますしっ」

“千果”も種類としてはオレンジがあるそうだけど、今は品切れということだった。

「スーパーで売ってるのは赤が主流ですし。黄色いミニトマトがお家でとれたらいいですよ」

「わかった」

「それじゃあ」

「チカの友達としてアイコ黄色も採用」

「ええっ」

「大丈夫。分け隔てなく愛情を注ぐので、たぶん」

(たぶんって!)

まったく、私のこと「へんなとこで強情」なんて言ったけど自分だって……。

そんなこんなで、チカ赤とアイコ黄色の苗を購入決定。

「あとは朝顔かな」

「えっ」

瞬間、今朝のことを思い出して、頬が少し熱くなる。

私ってば、自意識過剰にもほどがある……。

彼は別に含みのある言い方をしたわけでもなかったと思うし。

「朝顔だけは育てたことあるな。君もない? 小学校低学年の定番みたいだし」

「あ、はい」

「種まきも間に合いそうでよかった。支柱もセットになったあれを買っていこう。小学校のおさらいじゃないけど」

「いいですね」