それにしても、麗華先生は保坂先生のことを本当によく知っている。家族ぐるみのお付き合いで幼馴染だから、当然といえばそうだけど。

(ん? ということは……)

私はちょっと気になっていたことを訊ねてみた。

「麗華先生、保坂先生のお姉さんてどんな方なんですか?」

「えっ」

(麗華先生?)

気にせいだろうか? ほんの一瞬だけれど、先生の表情がぎくりとして見えた。

「どうしてまたそんなことを? 何か気になることでも?」

にっこり笑いながら質問に質問で返す先生に違和感を覚えつつ、私はパジャマを買いに行ったときのことを話した。

「ああ、それはきっと優美(ゆみ)さんよ」

「優美さん?」

「義理のお姉さんね。上の兄貴、私と同級生の春臣(はるおみ)の奥さん」

麗華先生によると、春臣さんと優美さんはお二人とも内科医で、夫婦で保坂家の病院を継いでいるのだとか。

「優美さん、モデル並みの美人でね。それにね、社交的だけどさっぱりした気持ちのいい人で。アキもそうだけど、義理の弟三人とも仲がいいいのよ」

「弟三人?」

「そう。夏生(なつき)、秋彦、冬衛(ふゆえ)。あれ? 聞いてない?」

またまた麗華先生によると、保坂先生は男四人兄弟で、保坂先生を含めて上三人は全員が医師。末の弟さんも研修医という。つまり、保坂先生は医者の家系のサラブレットというわけだ。

「優実さんがこっちに来たときに、アキが買い物に付き合ってあげたとか。そんなところかしらね。ハル……春臣はそういうとこ気が利かないから」

「そうなんですね……」

(そっか。じゃあ、義理とはいえ本当にお姉さんだったんだ。じゃあ、あのエプロンもお義姉さんの……)

「何か? まだ気になることでも?」

「えっ、別に……大丈夫です」

「そう?」

「はい」

この違和感はなんだろう? 麗華先生の態度もちょっと変な気がする。まるで私を納得させようとしているような。そんな気がして。でも、それもこれも全部気のせいなのかな? 私が自身の心に気づいてしまったから。保坂先生という人の存在の大きさに。

「ところで。清水さんは何か聞いてる?」

「何かとは?」

ふいに問われ、はてなと首を傾げる。

「アキが急に帰省することになった理由とか」

「さあ、特には……。あ、ご家族が急病とかではないそうですよ。ただ“野暮用”とだけ仰ってました」

「そう……」

麗華先生は目を伏せると、何やら思案するような顔つきになった。

「先生は何か聞いていらっしゃるんですか? 保坂先生から」

「ううん。何も」

顔を上げて即答した先生は、一見するといつも麗華先生のようだったけど。

(先生、本当は何か事情をしってるのかな……?)

やっぱり違和感は否めない。だからといって、私に追及する権利はないし。麗華先生は、これ以上この話を続けることをお望みではない気がして。

「すみません。私、そろそろ失礼しないと。グレちゃんのことが気になるので」

私はぼんやりとしたモヤモヤに無理やりフタをして「気にしない、気にしない」と、心の中で呪文を唱えたのだった。