グレちゃんが「何やってるの?」という顔で混ざりにくると、先生はよしよしと頭を撫でながら「おまえのせいだぞ」とたしなめた。

もっとも、グレちゃんはどこ吹く風といった調子で気持ちよさそうに目を細めるばかりだったけど。


「パジャマ、買いに行きましょう」

「え?」


あまりにも唐突な提案に思わずきょとんとしまう。

先生はパジャマの綻びた部分を見ながら申し訳なさそうに言った。


「すみません、グレのせいで……」

「そんなっ、気にしないでください」


確かにグレちゃんの爪が引っかかった部分に綻(ほころ)びができてしまったけど。

けど、そもそも年季が入っていていいかげんくたびれていたパジャマだもの。


「そういうわけにはいかない」


それでも、先生は納得してはくれなかった。


「いいんです、本当に。ちょうど買い替え時かなと思っていたので」

「だったら買わせてください」

「ええっ」


私がいくら遠慮しても、先生はいっこうに引く気配がない。


「筆頭飼い主として申し訳が立たない」

「でも……」


さりとて私もそう簡単に甘えるわけにはいかないもの。

パジャマを買ってもらうだなんて、そんなこと。


「では、こうしましょう」

「はい?」

「僕の買い物に付き合ってください」

「え?」

「清水さんは一宿一飯の恩義というのをご存知ですか?」

「それは知っていますけど」


先生、いきなり何を……?


「なら話が早い。恩義を感じているなら僕の言うことをきいてください」

「えっ」

「恩返し、したいですよね?」

「それは……」


どういうわけか、いつの間にか脅迫めいた流れになっているんですが……。

保坂先生はやっぱりちょっと難しくって変わっている。

ただ、優しくて律儀な人であることに間違いなかった。