結局、昨夜は先生と何も話せないまま――。
先生は勉強会の準備があるとかで仕事部屋にこもってしまったし、疲れていた私はシャワーを浴びて先に休んでしまった。
今後の身の振り方について今日こそちゃんと話さなきゃ……。
そんなことを考えながら、もっそりと布団から這い出て引き戸を開ける。
四つん這いの格好のまま横着そうに顔だけ出すと――げげっ!
まさかまさか、ちょうどリビングに入ってきた保坂先生と目が合った。
「おはようございます」
「お、おはようございますっ」
先生、日曜なのに早起きだなんて卑怯ですっっ(なんという言いがかりを……)。
引き戸の影から間の抜けた顔で先生を見上げる私と、そんな私を見下ろす新聞を持ったパジャマ姿の保坂先生。
そこへ、先生を追うようにしてグレちゃんがやってきた。
「あ、グレちゃん。おはようございます」
私は二匹目の猫よろしくグレちゃんとほぼ同じ目線で挨拶した。
もうすっかりお友達、というか――新参者の私は彼女の子分といったところか。
「清水さん」
「はい?」
グレちゃんと戯れる私を見ながら先生は言った。
「お腹、空いてますよね?」
「それは……はい」
「少し待っていてください」
「え?」
「ちゃんと“ご飯あげますから”。グレにも、清水さんにも」
先生はくつくつと笑いながらそう言うと、新聞を「どうぞ」と私によこした。
保坂先生、こういう冗談も言うんだ。
なんか、ちょっと……楽しいかも?
「先生。私、光栄にも猫扱いされてます?」
「猫に新聞はすすめませんよ」
それはそうだ。広げた新聞の上にのっかることはあっても読むことはないものね。
「朝食、私が何か作ります。お礼がわりといったらあれですけど」
「いや、気持ちだけで。清水さんはグレと遊んでやってください」
「でも……」
「猫は猫同士」
「やっぱり猫扱いじゃないですか」
「飼い主の言うことは聞いておきなさい」
そうして先生はくすりと笑うと、猫二匹(?)をリビングに残してキッチンへ消えていった。