到着したその場所は、チラシで見たことがあるファミリー向けの大型マンションだった。

確か3か月ほど前から入居が始まった新築の分譲マンションだったと思う。


「大きなマンションですね」

「基本的に単身者は少なくて、小さな子がいるファミリー層が多いようです」


それはそうでしょうとも……。

こんなところに猫とふたり暮らし(?)できるサラリーマンなんて、そうそういるはずがないもの。

先生のうちは9階の角部屋で、玄関ドアを開けるとすぐ尻尾の長いキレイな猫ちゃんが待っていた。


「紹介させてください。彼女はグレムリンといいます」

「グレムリンちゃん……」


たぶん映画のアレからきているのだろうけど、またずいぶんな名前を……。


「長いので普段はグレと呼んでいます」

「グレちゃんですね」

「はい」


映画のそれはむっくりしていたはずだけど、グレちゃんはすらりとスマートな短毛種の猫だった。

毛の色はグレーで、瞳はブルー。

こういう話もなんだけど「おいくら万円ですかっ」という、いかにも高級そうな猫ちゃんだ。


「ただいま、グレ。同僚の清水さんだよ。大切なお客様だから仲良く頼むよ」


先生が頭を撫でてやるとグレちゃんは「なぁ~」と嬉しそうに鳴いた。

その姿がもう可愛くて可愛くて!

私は今すぐにでもぐわっと抱っこしたかった。

でも、怖がらせるといけないので一生懸命に我慢がまん。


「グレちゃん、お世話になります。清水です。よろしくお願いします」


頭をなでなでしたい気持ちをおさえつつ、私は挨拶だけして静かに玄関を離れた。

グレちゃんが私のことを気に入ってくれるとよいけれど……。


「清水さんはやっぱり変わっていますね」

「えっ」