女モノのボストンバッグを持ったスーツ姿のクールな男と、上等なビジネス鞄を抱えた全身ユニクロの女……。

思いきりちぐはぐな先生と私は、とりあえずコンビニを目指して歩き始めた。

ちなみに、先生のご自宅はさっきのコンビニを挟んでちょうど反対の向こう側とのこと。

まったく私のせいでとんだ遠回りをさせてしまった。

おまけに、迷惑ついでに私を泊めることにまでなっちゃって。

私が言うのもなんだけど、保坂先生ってつくづく運がないっていうか。

職場を離れたこんなところでまで損をさせられて、あぁ……。

それに、知られたくない秘密まで知られちゃって――。


「先生。私、絶対に誰にも言いませんから」

「何のことですか?」

「ですから、その……先生と麗華先生が幼なじみだっていう話です」

「なんだ、そのことですか」


あれ? 

先生の反応があまりにもあっさりしていて、なんだかちょっと拍子抜け。

麗華先生はトップシークレットだと言っていたし、私はてっきり固く口止めされるとばかり……。


「わかっていますから」

「え?」

「だって、おもしろがって他人の秘密をぺらぺら喋るような人じゃないでしょ、清水さんは」

「(えっ)」


先生、そんなふうに見ていてくださったんだ……。

今まで自分は保坂先生の隠れ応援団(団員一名)のつもりだったけど、実際は――。

私を「僕の大切な同僚です」と言ってくれた保坂先生こそ、応援団だったのかもしれない。


「信頼しているので、清水さんのこと」

「ありがとう、ございます……」


なんだろう、なんか……今日は仕事もきつかったし、いろんなことがありすぎたし……だから――泣いてしまいそうだった。

でも、涙なんて見せたら先生を心配させてしまうから。

これ以上気を遣わせるなんて絶対に嫌だから。

泣きそうなのを誤魔化したくて、私は先生から顔を背けるようにして上を向いた。

すると、少し離れた向こう側に可愛らしい“人ではない影”が見えた。


「あっ!先生、猫ですよ!黒猫です!」


私はこれ幸いと思いきり洟をすすると、気持ち大きな声で猫のほうを指さした。

残念なことに、私たちに気づくとすぐ猫はぴゅーっと逃げてしまったけど。


「清水さんは、猫って大丈夫ですか?」

「え?」