先生が「タオルみたいにかさばる物は置いてきたらいい」と言ってくれたので、それに甘えて必要最小限の物だけ持って出ることにした。

とにかくここを早く出なきゃ、早く出たい……そんな気持ちで焦って荷物を整える。

下で先生を待たせてしまっているという事情もあったけど、理由はそれだけじゃない。

だって、すごく怖かったから……。

家に置きっぱなしになっていたスマホを確認すると、同じ番号からの着信で履歴がいっぱいだったのだ。

それを見たらもう、とてもひとりではいられないと思って……。

正直、麗華先生の後押しがあっても男性の保坂先生のお宅にお世話になるのは気が引けるところがあったのだけど、今は――。

保坂先生と一緒にいられることが、とても心強くてありがたかった。

荷物を持って急いで戻ると、先生は見ていたスマホをさっとしまって、私の肩からひょいと荷物を取り上げた。


「行きましょうか」

「そんな、悪いですっ。自分で持ちますからっ」

「いいですよ、これくらい」

「で、でもっ」


だって、彼氏でもないのにそんなことまで……。

っていうか――私、今まで付き合った彼氏でこんな気遣いをしてくれた人って誰かいたっけ?

思い返すとトホホな恋愛ばかりで、みじめで悲しい気持ちになった。

そんな私の表情がまたまた先生に気を遣わせてしまったようで――。


「では、交換です」

「へ?」

「僕の鞄を清水さんが持って下さい」


先生は“とりかえっこ”などという子どもみたいな可愛い提案を持ち出した。


「この鞄、見た目ほど重くはないと思うので」


そう言って手渡された鞄は、先生の言うとおり思いのほか軽かった。

本当に上質な物ってこういうものなんだろうなぁとしみじみ思う。


「軽いです。すごく立派な鞄で重そうに見えるのに」

「格好ばかりの見かけ倒しです。まるで今日の僕みたいに」

「えっ」


自嘲気味に小さく笑う先生に、私はものすごーく驚いた。

だって、保坂先生の自虐ネタなんて……。

それに――そもそも、先生が冗談を言うこと自体がレアというか。


「では、行きましょうか」

「は、はいっ」