まさかまさか、こんなことになるなんて。
なんだかいきなりいろんなことがありすぎて、頭の中が飽和状態だった。
「話は済みましたか?」
「あ、はいっ。ありがとうございます。保坂先生によろしくとのことでした」
借りていたスマホを手渡すと、先生は「そうですか」と呟くようにぼそっと言った。
「先生と麗華先生、幼なじみだったんですね」
「上の兄が麗華先生と同級生で。下の兄も弟さんと同級生で。家も近くだったので家族ぐるみの付き合いをしていたんです」
「なるほど」
「あの人、面倒見はいいし信頼できる人物ってのは確かだから。何でも相談したらいいですよ」
あの人だなんて……そんな言い方をする先生が妙におかしくて、私は心の中でくすりと笑った。
「とりあえず、今夜は僕の言うとおりにしてください」
「(えっ)」
その台詞に思わず心臓がどきんと跳ねる。
って……私ってば何を勝手にドキドキしてるわけ!恥ずかしすぎるよっ。
先生は真剣に私のことを心配してくれているのに、まったくもう。
「麗華先生も勧めてくれたでしょうし」
「はい」
「すまないが、僕を安心させると思って我慢してください」
そうして、先生はちょっと困ったようにぎこちなく笑った。
保坂先生の優しさって、なんだかすごく柔らかい。
じゃあ硬い優しさって何だよと問われたら答えに困ってしまうけど。
なんていうか、先生のそれは――何気ない言葉や態度で、さりげなく人を優しく包んでしまうような。
本当にもう、保坂先生ってやっぱり器用なんだか不器用なんだかわからない。
その不器用で繊細な優しさに、私の胸はじんわり熱く切なくなった。