麗華先生には元カレのことは相談済みだし。

困ったことがあれば力になるとも言ってくださったし。

そりゃあ、職場の上司にこんなプライベートなことで厄介をかけてしまうのは心苦しいばかりだけど。

それでも今頼れるのは麗華先生以外には誰も考えつかなくて。

麗華先生のお宅に泊めていただくのは無理としても、クリニックに泊まらせてもらう許可がいただけたらと。

私は自分の考えを掻い摘んで保坂先生に話した。

これで先生もとりあえず安心してくださるかなって。

ところが、先生は安心するどころか思いがけない提案をしてきた。


「僕のところへ来ればいい」

「ええっ」


その表情と口調から、冗談でないことはよくよく理解できた。

でも、そんなこと……。


「麗華先生の自宅はここからだと支度をして急いで向かったとしても着くのは夜中でしょう」

「ですから、先生のお宅ではなくクリニックに――」

「では明日の日曜をクリニックで過ごして、そのまま月曜の仕事に臨むつもりなのですか?」

「それは……」


返す言葉がなかった。

私の考えはとりあえずのその場しのぎで、根本的な解決にはつながっていないのだから。

けど、だからといって――。


「僕のことが信用できませんか?」

「そんなっ、そんなことないです!絶対に!保坂先生のことを信用してないとか絶対にないですっ」


私はしどろもどろになりながら必死に否定した。

だって、信頼も尊敬もしているのに、誤解されるなんて絶対に嫌だったから。

先生はそんな私の様子にわずかに驚いて、それから少し困ったように苦笑した。


「すみません。わかりましたから、清水さん」

「いえ、私のほうこそなんだか……」

「いや、僕の言い方がまずかった。いくら信頼関係のある同僚とはいえ、男の家に来いと言われてすぐに“はい”と言えるわけがない」

「すみません……」


ひどく混乱していた。

だって、話がまったく思いがけない方向へ転がり始めているみたいで。