今夜はもう退散したものと思いたくて、都合よくそう思い込んでいたけれど。

先生が指摘するとおり、本当はまだ近くで様子をうかがっていることだって……!?


「送りますから行きましょう。こんな状況で一人で帰すわけにはいきません」


口調こそ穏やかだったけど、先生の言葉には異論は許さないというきっぱりとした態度がうかがえた。


「すみません、巻き込んでしまって」

「気にしないでください」

「申し訳ないです、本当に……」


それに、とても恥ずかしかった。

あんなみっともないところを見られてしまって。


「清水さんは悪くない。僕が勝手に巻き込まれにいったんだから」

「そんなことっ」

「力になれてよかったです。清水さんの」


そう言って笑った保坂先生の表情は本当に優しかった。

ひとが心からほっとしたときに見せる安堵の笑顔。

職場だけでなく、こんなところでも先生の誠実さに救われるなんて。

送ってもらう道すがら、先生は元カレとのことについて何も聞いてはこなかった。

あんな迷惑を被ったのだから事情を聞く権利は十分にあるのに。

もちろん、他人の色恋沙汰など興味がないのかもしれないし。

事情を知ることでこれ以上関わり合いになるのを懸念しているのかもしれないし。

先生の真意はわからない。

でも、なんだか保坂先生らしいなって。

いつもいつも比べてしまって悪いけど、これが桑野先生や貴志先生なら――。

根掘り葉掘りあれこれ探ってきたに違いない。

いや、それ以前に――先生方は助けに入ってくれただろうか……?

失礼ながらそんな疑問が頭をよぎり、私は慌ててかき消した。