どうしようっっ……。

その手を振り払って逃げればいいのに。

頭ではわかっているのに動けない、声も出ない。

するとそこへ――。


「清水さん???」


きっと、神様が差し伸べてくださった救いの手。

その声は、たしかに聞き覚えのある声だった。


「(保坂先生!!)」


見慣れないスーツ姿だけど、間違いなく保坂先生だ。

思いがけず、本当に本当に会えた。

ひょっとしたら――心のどこかで、会いたいと願っていた人に。


「その手をはなして下さい。迷惑です」


保坂先生は足早に近づいて来て言うやいなや、裕也の腕を払いのけた。

そうして――私をかばうように守るように、自分のそばへ引き寄せた。


もう、何がなんだかわからない。

でも、混乱しながらも、安心を得た感覚はあった。

すがるように寄り添う私を、先生の腕がそっとしっかり包み込む。

頼ってもいいんだなって、守られていていいんだなって、すごくすごく心強い。


「なんだよ、関係ない奴は引っ込んでろよ!」


裕也は横槍を入れられたとばかりに、先生に食ってかかろうとした。

でも――。


「関係あります。彼女は僕の大切な同僚です」


戦わずとも既に勝負はついている。

おそらく誰がどう見ても、裕也の負けに違いなかった。

上品で堂々と落ち着いた保坂先生に対して、裕也のなんと貧相なこと……。


「今日はとりあえず帰るけど、話は終わってないからな!」


想定外の保坂先生の登場にひるんだ裕也は、捨て台詞を残して逃げるように去っていった。

めいっぱい強がって「お、覚えてやがれ!」などとほざきながら退散するチンピラみたいで、まるで安っぽいドラマのよう。