連れてきてもらったのは、落ち着いた雰囲気のイタリアンのお店。

先生がこうして個人的に誘ってくれるときは、慰労のほかに必ず何か理由がある。

とりあえず注文を済ませて落ち着くとすぐ、先生は単刀直入に聞いてきた。


「今日はどした? 元気ないみたいだったけど、何かあった?」

「えっ」


先生、やっぱり気づいていたんだ。

それで心配してくれて……。

麗華先生はものすごい観察眼を持っている。

それは患者さんに対しては治療に反映され、大いに役立っているに違いない。

そして、スタッフに対しても――。

何か悩みや問題を抱えていそうな感じがあると、麗華先生はこうして声をかけるのだ。


「すみません。仕事とはぜんぜん関係ないことなんです」

「そうなの? でも、よかったら話聞くわよ?」

「けど、本当にくだらない話で……」

「ひょっとして、恋愛がらみとか?」

「まあ……」


それは本当にくだらない話で、誰に話してもどうしようもないことだった。

けど、だからこそなのかな?

誰かに聞いて欲しい、すっかり話してすっきりしたいという気持ちもあった。

麗華先生は尊敬できる上司であり、ひとりの女性としても信頼できる人だから。