本当に何なのアイツ。最低、最悪じゃない。
そう文句を言いながらも、彼の言葉に従っている自分にも苛立つ。


二十分後、私は彼の前に立っていた。
かなりハイスペースで準備した所為で、メイクなんてベースメイクだけだし、髪だって櫛で整えただけだ。

本当は、もっときちんとメイクして外に出ていきたい。
だけどこれ以上待たせると、侑李が部屋に怒鳴り込んできそうだったから止めておいた。



「行くぞ」



私を一瞥した後、そう短く言うと彼は歩き出す。
それに置いて行かれないように、足早に後を追っていくと、玄関前に用意された車に乗り込み、櫻井さんに見送られながら静かに発車した。

意外にも、運転は彼自身。しかも止まるときや動き出す時の、ブレーキやアクセルの踏み方が上手く、スムーズだ。



「あの、何処に行くんですか?」

「行けばわかる」



さっきから、これの繰り返し。
車は数十分走り、住宅街から街中へと入って来ていた。