え、ちょっと待って。私、行くって言ってない。
でも、どこかに行く場所もないし……ちょっとだけなら、いいよね。
自分に言い訳をし、慌てて紙袋を拾い散らばった花束たちを押し込んだ。



「ま、待ってよ」



そこに居ないと分かってても、思わず口に出さずにはいられない。
誘うくらいなら、少しくらい待ってて欲しかった。

悪態を吐きつつ濡れて重くなった紙袋を大切に抱えながら、彼の後を追ってお店の扉を開く。
カランカラン、と軽いベルの音が店内に鳴り響きマスターの視線が私を捉える。



「いらっしゃい。お好きなところへ、どうぞ」



三十代半ばだと思われるマスターが、優しい笑みを浮かべて中へ入るように促す。
マスターの声に軽く会釈して、店内を観察。

カウンタ―はLの形をしているものの、座れるのは正面の五席だけ。
そしてテーブル席が三席あり、小さいスペースではあるものの店内はオレンジ色のダウンライトで、落ち着ける雰囲気を醸し出している。



「こっち。マスター、彼女にタオル貸したげて」