「行くぞ」

「ひゃっ。ちょっと、侑李降ろして」



立ち上がれない私を、躊躇なく横抱きにして立ち上がる。

女性なら一度は夢見る、お姫様抱っこ。
だけどこんな形でして欲しくなかった。
もっとロマンティックなシチュエーションを夢見てたのに。



「煩い、黙ってろ。それとも、ココにひとりで残るか?」



あれ?意地悪な顔になってる。
もうちょっと、さっきまでの優しい侑李でいて欲しかったな。



「帰るけど……侑李も怪我してるのに。私、歩けるから」



そういうと私を無言で睨みつけてきた。
はい、すみません。大人しくしてます。



「蒼井さん、手荒な真似をして本当にすみませんでした。お元気で」



そう深く頭を下げて謝る執事の前を、侑李は表情を変えずに通り過ぎて行く。



「あ、あの……あなたの名前を教えてくれませんか?」