この声……間違いない、あの執事だ。
眼頭から溢れる雫を袖で拭い、もう一度窓から下の様子を見た。

黒幕は後ろに隠れて、ほくそ笑むもんだって思っていたけれど、彼は侑李の目の前に立ち対峙している。



「俺は……さい……苛立って……。ふざけ……言って……知らねぇ……」



今まで聞いたことがないくらい低く響く声に、背中がゾッとする。
これだけ離れていても彼の怒りが感じ取れる気がした。
こんな侑李、初めてだ。



「……此方、言葉……賭け……勝……帰れる……い」



侑李に比べ静かに話すせいか、まともに聞き取ることが出来ない。
ただ何となく「掛けは俺の勝ち」と言った気がした。

まるで私が聞いていることを想定して話しているよう。



「賭……?……の分から……じゃねーよ、……だ。……こい」



相手を挑発するように、手招きまでして見せる侑李。

ちょっと、ちょっと。まさかたった一人で戦う訳じゃないでしょうね。
いくら体力が付いたからって、たった一ヶ月しかトレーニングしてない奴が、こんな大勢相手に敵うわけ無いでしょう。バカじゃないの?!