「侑李。無理は禁物だよ?」



彼の顔を覗き込むように見てみると、見るなと言わんばかりに口元を手の甲で押さえ顔を背ける。

けれど頬は赤く、いつもは真っ白いその肌が全体的にピンク色に染まっていた。



「もう、意地っ張りなんだから」



溜息を吐きながら、彼には聞こえないように小声で呟く。

どうしようかな……ここからなら、あの橋を渡れば家に帰る近道になってるはず。
本当は五㎞くらい走る予定だったけれど、半分くらいは走れたし今日はこれでお終いにしますか。



「侑李、帰ろう」

「――俺は、大丈夫だ」



口ではそう言っていても、膝が笑っているし全然大丈夫そうには見えない。
タオルで彼の顔に滴る汗を拭いながら優しく諭す。



「だめ。それに、もうすぐ陽が昇るわ」

「……分かった」



“陽が昇る”というフレーズにビクッと肩を揺らし、渋々といった感じで承諾した。