~誤解 花子side~


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私が通う 沢野辺高等学校は、県外でもよく知られるトップ校で、沢野辺駅から徒歩10分だ。高校にしてはひときわ大きな校舎が、登校する生徒を見下ろしている。
入学式もクラス替えも終え、皆ようやく新しいメンバーとなじめてきている。が、私にはクラス替えなど関係ない。いつでも 勉学がはかどることができれば何でも良いのだ。

校舎には東棟と西棟があり、私の所属する2年A組は東棟の2階だ。1年の時は4階まで上がらなくてはならず、置き勉をしない私にとっては地獄の日々だった。3年の教室は1階で一番楽だが、他の階よりも廊下が広くてとても長い。

A組は朝から 教室の外まで声が聞こえるくらい賑わっている。いや、賑わっているというよりか、騒音に近い。
騒音の台風の目は 早見 莉紗(はやみ りさ)。早見のせいで勉強に集中できないといっても過言ではない。
早見はいつも クラスでも目立つ男女のメンバーの一人で、その中でもいつも中心にいる。
顔は悪い方ではないが、スカート丈は下着が見えそうなほど短く、規則違反の黒靴下、リボンは緩く、第一ボタンは開けていて、頭髪はキャラメル色、目はカラーコンタクトによる薄茶色。いかにも私の好かないタイプだ。

休み時間は騒音で集中できないので 図書室で勉強することが多い。
私は 図書室のこの空間が、好きだ。古い本とカビの匂い、脚立を使わないと届かないほど高い本棚、木と本のレトロなコラボレーション…私には十分な環境だった。静まりかえったこの部屋が、先程までの私の耳を癒してくれる。

さあ、勉強をしなければ。
両親の期待に応えなければ。
弟の分までやらなくては。

…ときどき、思う。
私はなにを期待されているのか。
私はなにを強いられているのか。
私は何のために生きているのか。

まただ……またこんなことを考えている。思わず この運命に、神に、両親に、逆らおうとする思考をはたらかせてしまった。
これがバレれば何をされるか、わからない。弟のようにされるかもしれない。弟のようになってしまうかもしれない。そんなのは、絶対に 嫌だ。
もう、やめよう。そんなことを考えるのは。 私はただ言うことに従って、ちゃんとやれば良いのだ。模範解答をかけばいいのだ。模範解答のような人生を送ればいいのだ。
そうすれば、何もされない。褒めてもらえるはずだ。私はまた 止まっていた手を動かしだした。