「サキさん、またここで煙草吸いました?」

その人は「サキ」と言った。
男性でサキという名前の人には初めて会ったけれど、
その中性的で、鋭い響きは、よく似合う。
「早い」に「希望」で、「早希」と書く。

「人生において、こんなに手っ取り早く
希望を手にできると思ってなかったんだって。
喜んだ母親が付けたんだってさ。」

サキさんは、何故か妙にテンションを落として
その話をした。
でも、その話がとても好きなようで、
名前に興味を持たれる度にその話をした。
私はそういうときのサキさんがすごく近くに感じた。

「違う違う、俺にもう匂いがさ、ついちゃってるの。」

軒先でくわえていた煙草を消しながら、
サキさんは私を押し返すようにして店内に入ってくる。

「リクも吸ってくれたら、臭い気にならないよ?」
「え?私、喫煙者ですよ?」

驚いたように立ち止まり、
サキさんは私を見つめる。
煙草を吸う素振りを見せると、
嘘でしょう?とサキさんは目を丸くし、
リク怖いー、と言いながら少し嬉しそうに笑った。