中も、店先と同じように商品で賑わっていて、
その人よりも更に複雑な匂いがする。
嫌いじゃない。
服も多くて、声が吸い込まれるようだ。

「これ、履いたら?」

その人は奥から箱を持ってきて、
私に差し出す。
この人は前から知り合いだったかしら、と
首をひねりたくなるくらいの馴れ馴れしさだ。

「何ですか?」
「いや、靴。」

その人が箱を開けたので覗き込むと、
黒のシンプルな、でも上品で綺麗な靴が入っていた。

「…え、何ですか?」
「いや、だから、靴。」

そうじゃねぇよ、と言いたくて仕方ないが、
ひとまず受け取ってみる。
その人はなぜか満足気に頷く。

「いくら、ですか?」

買わされるのか、と警戒しながら聞くと、
お金はいい。と、彼は手を振った。

「それ、元彼女が置いてったやつだから。」

私は思わず、その人の顔を見つめる。
馴れ馴れしい上に、無神経なのか。
ゾッとして、靴を捨てたくなる。

「ごめんごめん、でもちょうどいいかなって。」

何がおもしろいのか、ひひひ、と空気をもらすように笑っている。
子どもみたいだ。
この人はモテるな、と反射的に考える。