学校の屋上

 アリスは振り返った。
彼の右手がしっかりとアリスを掴んでいた。
彼の瞳がアリスに向けられている。

「……ごめん………。」

透き通るような彼の声がアリスの頭に響いた。
見ると彼の方がびっくりしていた。

「……大丈夫。気にしないで………」




『………気持ちわりぃ。』

 慧太は悔やんでいた。

なんであんなことを言ってしまったんだ?
彼女は今、苦しんでいる。
なのにさらに追い討ちをかけるようなことを言ってしまった。
 それでも彼女は微笑んで大丈夫だと言った。
 お願いだ、もうこれ以上……

「笑わないで。」

彼女がびっくりして慧太を見つめた。

「……俺の前では笑わなくていい。」




『笑わないで。』

そんなことを言われたのは初めてだった。
だからかな、どう反応したらいいのかわからない。
わからない時は……
アリスは口元に笑みを浮かべようとしたがはっとして口元を手でおおった。

 ………そっか。
私はいつも笑ってごまかして、深く関わろうとしなかったんだ。
アリスはそれがわかるとと一気に力が抜けた。




 慧太は彼女の反応を黙って見ていた。

また彼女を傷つけてしまってはいないかと心配で仕方なかったのだ。
 だから、彼女がホッとした表情をしたとき慧太から笑みがこぼれ落ちたのだ。

……………………だから。

 慧太は、そう自分に言い聞かせた。




 あ……笑った。

アリスは初めて見た。
ぶっきらぼうなはずの彼の笑顔を。
アリスは初めて知った。
彼がまるで仔犬みたいに微笑むことを。

 アリスは自分が笑っていることに気がついた。
こんな風に笑えたのは何年ぶりだろう。

私は今、笑っている。

アリスはその幸福感に満たされていた。