アルの言ったとおり、私はここに住むことになった。私専用の部屋も用意され、食事もお城で働いている調理師さんが作ってくれた。制服でここに来たので、着替えも用意してくれた。毎日美味しい食事が食べられるし、とても豪華な部屋に住める。夢のような幸せな生活を送れる。でもやっぱり、

おうちに帰りたい

そう思った。
お母さん、お父さん、それに朝日、会えないのは辛い。
でもそれを我慢できるのはアルやラウロさんのおかげだった。感謝してもし足りな
い。
今日は、アルが暇だというので、一緒に散歩に出かけてみることにした。この広いお庭を1回歩いてみたかったので、ちょうどよかった。
お城で用意してくれた私用の着替えは、ドレスみたいなのや、フワッとしたスカート、ヒラヒラのレースのついたブラウスなど豪華そうなものが多かった。その中でも動きやすいスカートとトップスを選ぶと、そそくさと着替えた。
外に出てみると、まず玄関前には石畳の道が続いていて、その脇にはたくさんのお花が咲き誇っていた。ひとつひとつの花が凛としていて、美しかった。一目で手入れが行き届いているとわかるお庭だった。
周りを見渡してアルを探すと、調度こっちに向かっているところだった。
「アルー!はやくー!」
待ちきれずに大きな声でアルの名前を呼ぶと、「まってろ。」と落ち着いた声が帰ってきた。アルが来るのを確認してから、花に囲まれた道を進んでいくと、大きな噴水が見えた。パターンを変えながら水を上から下から出している姿は綺麗としか言いようがなかった。水の音、鳥のさえずり、草木の揺れる音。全てが重なって美しい音楽に聞こえた。この音楽を聞いていると心が安らいだ。
「綺麗だろう?」
カツカツと靴の音を立ててアルが近づいてきた。
「うん、綺麗。」
「ここでよくハルと遊んだんだ。噴水に落ちたりして、母に怒られたこともあったな。」
昔のことを思い出して、アルは苦笑した。
「弟と仲がいいんだね。」
「喧嘩ばっかりだったけどな。」
「それを仲いいって言うんだよ。」
私には兄弟がいない。だから、兄弟がどういうものなのかは分からなかったけど、喧嘩するほど仲がいいってどこかで聞いたことがあった。
「そんなもんなのか。」
「そんなもんなんだよ。私も兄弟が欲しかった。」
兄弟で一緒に遊んだり、喧嘩したり、そんな普通の事を1回体験してみたかった。私の小さい頃の遊び相手はいつも親だった。親は時間を見つけると私と遊んでくれたけど、親は共働きでなかなか遊ぶ時間がなくて、ひとりで寂しく過ごしていた時が多かった。
「兄弟がいると大変なこともある。一人っ子は親の愛情を一心に受ける事ができていいじゃないか。」
アルは弟を邪魔だと思ったことはあるのだろうか。でもきっと、邪魔だと思っても、自分に必要な大好きな存在なのだろう。なんだかそんな気がした。

「ねえ!この奥にも行っていい?」
もっと深くまでこの美しい場所を探検してみたかった。
「いいけど、迷子になんなよ。」
「わかってるって。アルはついてこないの?」
「俺は本を読む。」
そう言って小説を取り出すと、噴水の近くにあったベンチに腰掛けて読み始めた。
行く気はさらさら無さそうなので、仕方なくひとりで行くことにした。
奥の方に行くとそこは森のように木が生い茂って、少し薄暗かった。それでも木の合間からこぼれる太陽の光が幻想的な空間を作り出していて、怖くはなかった。鳥が飛び回っていて、目で追っていると、カラフルな鳥を見つけた。羽が虹色に輝き、くちばしは金色、尾羽は青色だった。あんな鳥は見たことがない。やっぱり本の中は現実とは違うのか。そう思うと、他の珍しい動物たちも見てみたくなった。探してみるといろんな生き物がいて面白かった。行列をつくるピンクのアリ、光を発しながら飛んでいく蝶、長い毛を生やしたリスに、身体に花柄がついたキツネもいた。どれもこれも見たことのないファンタジーの世界だった。