放課後、部活動が終わったところで矢沢くんの誕生日サプライズは盛大に行われた。当の本人は呆れていたけれど。
一段落ついたところで、部長の赤坂くんが思い出したように口を開いた。
「あ、ねえ、シルバーウィークの合宿なんだけどさあ。」
それぞれの方を向いていた部員がぱっと赤坂くんを見る。
来週のシルバーウィークの合宿。
一泊二日で大きなグランドがある公園の近くのキャンプ場でテントを張って泊まりこみで練習する合宿だ。
みんな結構楽しみにしているようだ。
「夜、バーベキューするからそれぞれ焼きたいものもってこいよー。あとちょっといい感じの器具が借りれそうだからキャンプファイヤーみたいなのできるかも。」
みんながおおっとざわめく。
バーベキューかあ。
キャンプファイヤーかあ。
火が怖い私にとってあまり喜ばしいものではなかった。
浮かない顔をしていたかもしれない。近くにいた高島くんが話しかけてきた。
「一ノ瀬も合宿行くよな?」
「うん、もちろん!」
「よっしゃ。バーベキュー、何持ってく?」
「うーん、無難にマシュマロとか...かなあ。」
後ろでグミやらスニッ○ーズやらを持っていくという会話が聴こえる。
「あいつらの思考すげえな...。」
高島くんが呆れた声を出す。
「ね...。それで、高島くんは何持ってくのー?」
「あー。俺もマシュマロ持って行こっかなあ。うまそうだし。あ、二人で一緒に買いに行かね?」
「いいね!次の休みとかどう?」
「空いてる!よし、決まりだな!」
高島くんと笑い合う。いつの間にか心配事なんて薄れてしまった。みんなといればきっと怖くない。
高島くんといると、私はよく笑っている気がする。
彼には感謝しなくちゃいけない。
何か用事があるらしく急いで帰っていく高島くんに、じゃあね、と手を振って私は用具を持って部室を出た。
「あーかーりっ!」
「いったい!もー、花ったら力強いんだから突然叩かないでよ。」
後ろから同じく用具を片手に担いだ女の子に背中を強く叩かれた。痛い。
同じ学年で一緒にマネージャーをしている花香だ。
「灯は丈夫だからきっと大丈夫だよ。そんなことよりさあ。」
私はいったいいつ丈夫だと言った。
「灯、最近高島といい感じじゃん?何、付き合ってるの?」
突拍子もない質問に思わず吹き出した。
「違う違う。最近私が病み期入ってるから、心配してくれてるだけだよ。」
「え、灯病み期なの?全然見えないけど。」
見せてないんですー。言わないけど。
高島くんには何故かバレたけど。
「失礼な。私にだって悩む時くらいありますー。それに。第一、高島くんみたいなかっこ良くて優しい人が私と付き合ってる訳無いでしょー。」
「ふーん、灯的に、高島はかっこ良くて優しい人なんだー。」
花がニヤニヤしながら言ってくる。
「何よ。別に間違ってないでしょー?私あんなにいい人見たことないもん。」
「それはー、高島を気になってるってことで、OK?」
また吹き出してしまう。
「違う違う!いい人はいい人!言ってるでしょ?好きな人はいませんって。」
ちなみに、花は赤坂くんと付き合っている。
「嘘つけ。」
「ついてない。」
「ついてる。」
「ついてないよ。」
「白沢明。好きなんでしょ?」
「っ!」
突然出てきた名前に、驚きを隠せなかった。
「ごめんね。色々あって田島から聞いちゃった。あいつは責めないでやって?知ってるのは、私と赤坂だけだから。」
花が笑う。部活後のこの時間には、もう日は落ちて空気は藍色に飲まれていく。
そうだった。田島くんも同じ学校にいるんだった。
花から気を遣われたりしたらどうしよう。気まずくなったりしたらどうしよう。
「...どう、思った?」
恐る恐る尋ねる。
「まあ、灯が大変な思いをしてきたってことはわかったよ。白沢も、まあ、うん。なんというか、私には想像できないけど。だけどまあ、過去のことだし、今の灯が私は大好きだから、特に気を遣うことでもないかなー、なんて思ったりした。」
失礼だったかな、と花は笑う。
藍色の空気と、金色の風が彼女を包む。
予想していた答えより、遥かに素敵な答えが、私を安心させた。
「花。」
「うん?」
「大好き!」
用具を持ったまま、花に抱きつく。
「おう、私も!」
えへへ、と笑い合う。
いい友人に出会った。
「あ、でも。高島については、合宿でたっぷり質問させていただきますのでその辺よろしく!」
「えー!なんにもないってばー!そ「こっちはあるんですー。いい加減過去から進んだ方がいいよ?灯も白沢も。」
花はにっこりと微笑んだ。