……翌日も、翌々日も。


佐川専務のお誘いは続いた。
さすがに頭にきて言い返す私、人見知りだったよね。
怒りは人を変えるのかな?

「美琴ちゃん!誘惑しにきたよ」

仕事をする私のデスクにドンッと手をついて、格好つけているらしい専務。
35歳って聞いたけれど、司さんのほうが断然大人だしカッコイイ!
初めは憧れていたらしい経理の先輩達も最近は苦笑い。
司さんと私の関係は皆知らないから、試しに付き合えば色々買ってもらえるんじゃない?なんて言われることもしばしば。
とにかく佐川専務はルックス的に目の保養になると笑っていた。
私は笑い事じゃないのだけれど。

「いい加減にしてくださいっ!私、仕事があるんです!」
「そんなの理子ちゃんに任せていいよ」

それを聞いた隣の席の理子先輩は、佐川専務を睨みつける。
綺麗に巻かれた長い髪を払って腕組みをした。

「はぁ?そーゆーの、やめてくださいよ」
「おや、理子ちゃんヤキモチかな?」
「違います。私、イケメンには飽きたんで」
「奇遇だなぁ!僕も美人には飽きてね、美琴ちゃんみたいな童顔の可愛い子と……」
「うわっ、ロリコンですかぁ?」

……理子先輩、ロリコンって。
私22歳です、嬉しくないです。

仕事中だから響く声。
きっと設計部まで筒抜け。

「り、理子先輩っ!」
「なによ」
「佐々木先輩が……」
「あら。イケメンに飽きたって聞こえたかしら」
「え、理子先輩からすると佐々木先輩はイケメンじゃないってことですか?」
「あんたね、そういうことストレートに言うもんじゃないわよ」
「素敵な人だと思いますけど……」

「美琴ちゃん!素敵とイケメンを持ち合わせた僕を……」

「佐川専務マジでうるさいですからぁ!」
「強気な理子ちゃんにゾクゾクするね」
「彼が妬くんで黙ってください」

デスクは遠いけれど、佐々木先輩が険しい眼差しで見ています。
理子先輩のこと気になるんだな。
実は、二人が恋人だったなんて鈍い私はずっと気づかなくて、最近知って驚いたばかりなのだ。
司さんとの仲をいつの間にか色々知っていてアドバイスしてくれたのも納得。
素敵なカップルにキュンとして、私はこっそり口角を上げた。
同時に突然パンッと掌を打った佐川専務。

「そうだ!僕が社長になったら美琴ちゃんを秘書にしよう!」
「えっ!?イヤです!絶対イヤです!」
「社長秘書だよ?憧れない?」

全く憧れません。

「理子先輩、工場いってきます」
「はーい」

専務を無視して席を立つと、設計部の作業台で組み立てをする司さんにドキッとする。
集中している時の鋭い目つきに胸が高鳴り私は釘付け。

……そっか。
ずっと前そこでお昼を食べた時、総務部がよく見えたのを覚えてる。
もしかして、ずっと見て……るわけないか。


司さんが私に嫉妬なんて、あるわけないな。
誰にでも優しくて余裕があって、会社ではなんでもスマートにこなしちゃう人だもの。


ほんのちょっと、本当に少しだけ、寂しくなった。