司さんと約束をした日曜日。
ドキドキしながら部屋のチャイムを鳴らす。
迎えに行くと言われたのだけれど、なんだか緊張してしまいそうで。
電車に揺られ、もらった地図を頼りに徒歩十五分。
目印はファミレス、近くの白いアパート。
一人で訪れた201号室。
あの佐川専務に会ってから、毎日なんとなく機嫌が悪い気がする司さん。
だけど会社では聞きづらくて……。
悩んでいたら佐々木先輩がコッソリ教えてくれた。
彼いわく専務は『司の天敵』なのだそう。
他の社員は二人の仲が良くて、言い合っていると認識しているらしいけれど。
「はぁ……」
私も佐川専務はなんか苦手だなぁ。
司さんの天敵なら、なおさら。
重い溜め息で気持ちを少し吐き出すと、ちょうどガチャリとドアが開く。
ドキドキを思い出した私は、シャキンと背筋を伸ばした。
「おはよー」
「おはようございます!」
「ごめん。まだゴミ部屋……」
「えっ?そんなおかまいなく」
ゴミ袋を片手に迎えてくれた司さん。
開ききっていない寝惚けた瞳は、私だけが見ることのできる特権かなって。
嬉しさと愛しさが溢れてくる。
片言の「オジャマシマス」と、玄関の端に揃えて脱いだパンプス。
いよいよドキドキを噛み締めて立ち入ると、チョンと引っ張られた背中のリボン。
「……可愛い」
「えっ!?」
司さんが捕まえた、少し大きめのバックリボンが目を引く可愛いカットソー。
「理子先輩のオススメなんです!」
「ふーん。……まともで良かった」
「私もこのくらいで充分なんですけど。でも次の段階もあるそうで、ちょっと楽しみです」
「は?」
「シースルーとスリット?は、もっと大人になってからなんだそうですよ」
「……あ、そう」
「理子先輩はお洒落なことたくさん知ってて凄いです!」
「見習う人変えたら……?」
「え!?」
「別に美琴は今のままで可愛いって」
「そそそ、そんなっ!あっ、ネイルも勧められたんですけど、そうするとパンが作れないから……、えーっと」
司さん寝惚けてるんだ、きっとそう!
こんな私がっ、今のままで可愛いなんて!
誉められ慣れていないから、真顔でそんなこと言われたらもうオーバーヒート。
わたわたと話を戻そうとするも司さんは、今度は不意に手を取り私の指先に視線を落とす。
サラサラの前髪が彼の顔を隠して、何を考えているのか余計わからなくなった。
「……しなくても綺麗だから、大丈夫」
「…………っ!」
自爆。
なんでこんな涼しい顔で、そんな素敵な言葉を!
金魚のように口をパクパクさせて頬を赤くしていると、優しく笑う司さんにそれをむぎゅっと摘まれた。
「ふへっ」
「とりあえず白坂みたいにはならないでくれ。恐ろしいから」
「美人なのに……」
「うん。でも好みは人それぞれ」
「はぁ……、わかりました」
「よろしく」と悪戯に口角を上げて真っ直ぐに私を見る瞳は、とっくに宮内部長とは別人。
司さんであることを意識したら急にざわざわする胸が甘い予感をちらつかせる。
今になって、サッと髪を整え直した。
ドキドキしながら部屋のチャイムを鳴らす。
迎えに行くと言われたのだけれど、なんだか緊張してしまいそうで。
電車に揺られ、もらった地図を頼りに徒歩十五分。
目印はファミレス、近くの白いアパート。
一人で訪れた201号室。
あの佐川専務に会ってから、毎日なんとなく機嫌が悪い気がする司さん。
だけど会社では聞きづらくて……。
悩んでいたら佐々木先輩がコッソリ教えてくれた。
彼いわく専務は『司の天敵』なのだそう。
他の社員は二人の仲が良くて、言い合っていると認識しているらしいけれど。
「はぁ……」
私も佐川専務はなんか苦手だなぁ。
司さんの天敵なら、なおさら。
重い溜め息で気持ちを少し吐き出すと、ちょうどガチャリとドアが開く。
ドキドキを思い出した私は、シャキンと背筋を伸ばした。
「おはよー」
「おはようございます!」
「ごめん。まだゴミ部屋……」
「えっ?そんなおかまいなく」
ゴミ袋を片手に迎えてくれた司さん。
開ききっていない寝惚けた瞳は、私だけが見ることのできる特権かなって。
嬉しさと愛しさが溢れてくる。
片言の「オジャマシマス」と、玄関の端に揃えて脱いだパンプス。
いよいよドキドキを噛み締めて立ち入ると、チョンと引っ張られた背中のリボン。
「……可愛い」
「えっ!?」
司さんが捕まえた、少し大きめのバックリボンが目を引く可愛いカットソー。
「理子先輩のオススメなんです!」
「ふーん。……まともで良かった」
「私もこのくらいで充分なんですけど。でも次の段階もあるそうで、ちょっと楽しみです」
「は?」
「シースルーとスリット?は、もっと大人になってからなんだそうですよ」
「……あ、そう」
「理子先輩はお洒落なことたくさん知ってて凄いです!」
「見習う人変えたら……?」
「え!?」
「別に美琴は今のままで可愛いって」
「そそそ、そんなっ!あっ、ネイルも勧められたんですけど、そうするとパンが作れないから……、えーっと」
司さん寝惚けてるんだ、きっとそう!
こんな私がっ、今のままで可愛いなんて!
誉められ慣れていないから、真顔でそんなこと言われたらもうオーバーヒート。
わたわたと話を戻そうとするも司さんは、今度は不意に手を取り私の指先に視線を落とす。
サラサラの前髪が彼の顔を隠して、何を考えているのか余計わからなくなった。
「……しなくても綺麗だから、大丈夫」
「…………っ!」
自爆。
なんでこんな涼しい顔で、そんな素敵な言葉を!
金魚のように口をパクパクさせて頬を赤くしていると、優しく笑う司さんにそれをむぎゅっと摘まれた。
「ふへっ」
「とりあえず白坂みたいにはならないでくれ。恐ろしいから」
「美人なのに……」
「うん。でも好みは人それぞれ」
「はぁ……、わかりました」
「よろしく」と悪戯に口角を上げて真っ直ぐに私を見る瞳は、とっくに宮内部長とは別人。
司さんであることを意識したら急にざわざわする胸が甘い予感をちらつかせる。
今になって、サッと髪を整え直した。