美琴に声をかける暇もなく午後は始まり、慌ただしくなる仕事。
打ち合わせの後は納期までいつもこう。
仕事量の割りに設計部の人数が少ないから、まぁ仕方ない。
一段落つけばしばらく定時で帰れることもあるのだが。


「田代、俺の発注どうなってるかな?」
「発注……?」
「部品のサンプルなんだけど、今日には届いてるはずなんだ。白坂に頼んだんだけどさ」
「えっ、どこだろう……」
「多分封筒に入って宅配できてるはず」
「わかりました、探してみます」

それがないとどうにもならないので、一先ず一緒に探すことに。
伝票のファイルを確認すると送り状はきちんと綴じてあり、午前中に時間指定されて届いていた。
美琴が知らないなら受け取りは白坂だろうな。

「あっ、理子先輩!宮内部長宛の宅配物知りませんか?」
「部長宛……?」
「今日の午前中に届いた中にあるはずなんですが」
「どうしよ……、今日届いたのは全部倉庫に片付けて……」
「わかりましたっ!」

そう聞くや否や美琴は走り出す。

「宮内部長、すみません。確認不足で……」
「大丈夫、あとは自分で探すから。白坂は接客入ってたよな」
「はい、すみません」

素直に非を認めるようになったのは美琴の影響か、それとも大介か。
驚きつつも気にするなと微笑んで飛び出した子犬の後を追った。



「あったか?」
「わっ、開けちゃダメですー!」
「……は?」

開けたドアがガツンと何かに当たり、雪崩のように崩れてくるダンボール箱と美琴。
前もあったな、こんなこと。
滑り込んで優先的に美琴を受け止め、一緒に落ちてくる物から守ろうとそのままぎゅっと彼女を包む。


あ、まずい。

座り込んだ俺の上に倒れる美琴を、離す気がなくなってきた。
会社でこーなるの嫌だから、距離を縮めてなかったのに。

「…………熱、はもうないよね?」
「ないですっ!すみませんっ!」

そうして沸き上がる悪戯心。

「……大丈夫?」
「大丈夫で……、んぶっ!?」

せっかくの機会なので、起き上がろうとする美琴の頭を引き寄せた。

「でも、なんか元気ないね?」
「……えっ!?本当に元気ですよ!」
「体調じゃなくて」
「えぇっと、それは……!」

恥ずかしさと涙をこらえた瞳がチラッと覗き、俺を見た美琴はビクリとして服に顔を埋める。

「……それはっ」
「なに?」
「…………っ」
「なんで言わないの?」
「……意地悪な顔してるから」
「俺?」

そんなつもりなかったのだけど。
小刻みに首を縦に振る美琴は、耳まで赤く染まり俺の声にいちいち反応した。

「ちゃんと話してくれないとわからないんだけど?」
「……っ」
「あんまり焦らされるとマジで意地悪するかもね」

そう耳元で囁くと、観念したのかブツブツと白状し始める。

「……私、小学生以下なんです」
「は?」
「いつか愛想つかされてフラれる運命なんです」
「……はぁ?」
「だって……」