頬杖をついて外を眺めていると、走ってくる部長と目が合いニコリと微笑む。
休日に会うのは二度目。
会社と違う雰囲気にやっぱりドキドキして、上手く笑えているか不安。

「すまん。遅くなっ……」
「そんなことっ、会えて嬉しいです!」
「……っ」

カランカランとドアの鐘を鳴らし、真っ直ぐ私の座る向かいにきた部長。
なんだか固まっている。
走ってきてくれたせいか顔も赤くて、まだ手をつけていなかった水を差し出した。

「部長?お水飲んだほうが……」
「……あぁ、うん」
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ?」
「いや、ダメだ」
「えっ」

「可愛いすぎて一人で置いとけない」

……え!?

「……なっ、ななん、!?」
「あちー。久々に走ったなぁ」

宮内部長、サラッとそういうことを……。
動揺する私を前に、何でもなかったみたいにゴクゴクと水を喉に通しパタパタと服を扇いだ。
このくらいでアタフタするなんて子供なのかな。
経験したことのない恋愛にどうしていいかわからず、涼しい顔をしてメニューに視線を落とす部長を見つめ小さな溜め息を吐いた。



買い出しに付き合ってくれると言うので、ランチを食べ終えた後はスーパーへ。

「なに買うの?」
「強力粉と牛乳と……」
「パンの材料?」
「はいっ!」

大きく頷くと嬉しそうに笑う。
私は、この笑顔が大好きだ。

「ふふ。パンが大好きな宮内部長は子供みたいですね~」
「……ん?」
「あ。部長、何のパンが食べたいですか?」
「……」
「宮内部長?」

リクエストを聞いてもなかなか返事がないことに振り向くと、不意に掌を握られてガクンと距離が縮まった。


「俺はいつまで部長なの?」


「……えっ!?」
「もう『宮内部長』じゃないでしょ?」
「……っ」

突然耳元で囁かれ、ビクッと体を震わす。
恐る恐る見上げるとニヤニヤして試すように私を見下ろしていた。
子供みたいどころか、大人すぎて危険な香りがします。
握る掌は私よりももちろん大きくて、寄り添うと思い知る存在感。

「っ、つ……」
「アハハッ!美琴、ビクビクしすぎ」
「だ、だって……、私っ」
「ククッ」

私が男の人に慣れていないこと、知っているくせに!
優しい部長が意地悪に変わる。
悪戯な目つきで頭を撫でられて、私が頬を膨らますと、それをぷにぷに摘まみながら「可愛い」と笑った。

ほんと、私のほうがよっぽど子供。



アパートまで送ってもらい、別れた後また考える。

自分に自信のない私は、私のどこが好きなのか正直わからなくて。
本当は聞きたい。
だけど怖くて、彼の言った好きって言葉を信じてる。
私だけに見せてくれる、司さんを信じてる。


恋は実った後も、ほんのり切ないみたいです。