「ありがとうございました」

眼鏡を受け取り眼科を出る。
せっかくの新しい眼鏡だけれど、ケースに入れてバッグへしまった。
前を向くことに少しずつ慣れてきたところで、分厚いレンズに隠れる、もとの私には戻りたくないから。
自信がつくまで、コンタクトでいようと決めたのだ。

バッグを肩にかけると電話が鳴り、ドキンと頬が熱帯びた。
だって、私に電話をかける人なんて決まってる。

「も、もしもし」
『……おはよー』
「えっ、おはようございます?」

今、お昼だけど。

『……メガネ』
「覚えてたんですか?ありがとうございます!今、受け取ってきたところで……」
『……ふぁ』
「宮内部長?大丈夫ですか?」
『……ごめん、寝過ごした』
「そんなっ、気にしないでください!いつも残業で遅いんですから、休日くらいゆっくり休んだほうがいいですよ」
『……昼飯食った?』
「いえ、まだですけど」
『じゃ近くのカフェで待ってて』

ブツッ

「え?部長っ?」


……切れちゃった。

もしかして、来てくれるってこと?
ど、どど、どうしようっ!

「嬉しいっ!」


私はウキウキして、 眼科の側にあるカフェへ入りレモンティーを注文。
何度抑えても顔がとろけそうなくらい幸せだった。

窓際の席に座り行き交う人々を眺めてファッションの研究。
店内にもお洒落で綺麗な人がいればコッソリ見つめて勉強。
ふんふんと頷いては部長のことを考えてニヤけていると、隣の席に座っていたスーツ姿の男性が立ち上がる。
同時に何か白いメモ用紙がヒラヒラと宙を舞った。

「あっ、あの。落ちましたよ」
「……え?」
「これ……」
「あぁ、本当だ。ありがとう」
「いいえ」
「……君」

一瞬だけ目が合って、その人がかなりの男前で息を呑む。
何か言いかけていたのだけれど、癖と挙動不審で私は頭を下げすぐに俯き席へ戻った。

都会の人って、なんで皆素敵なんだろう!

イケメンだったなぁ。
宮内部長のほうがカッコイイけど。

「ふふっ」