部長にもらった飴で凌ぎながら黙々とキーボードを叩き、ふと息を吐く。
もうすぐ5時、あと三十分で帰れるぞ。
あいかわらず雨の降り続ける空を見つめ空腹に手を当てた時、オフィスのドアの向こうから宮内部長に手招きされた。

「白坂と田代、ちょっと頼める?」

応接室へ早歩きする部長を白坂先輩と小走りで追いかける。

「5時すぎに来客があるから急いで準備してほしいんだ」
「えーっ、こんな時間に打ち合わせですかぁ?」
「あぁ、取引先が別件で近くまで来てたらしくて。時間が合えばって急にな」
「それなら私一人で充分ですよ。……田代さんのダラシナイ格好じゃ会社の質が下がりますし」
「ダラシナイ?」
「ほら、大分ゆったりした格好じゃないですか」
「うーん。そうだな」
「一体誰の借りたんでしょうね」
「俺のだから仕方ない」
「…………え?」
「今日だけ勘弁してやって?……ナゼカ、びしょ濡れでさ。風邪でもひいて休まれたら、白坂の仕事が増えて困るだろ?」
「……そう、ですね」
「じゃ、俺も準備があるから。よろしくな」
「……はーい」

……白坂先輩から、何か物凄い憤りを感じます。
部長がいなくなると、それはそれはガッツリ睨まれた。


多分、白坂先輩も宮内部長のこと『好き』なんだよね。

……私なんかが部長の服を着ていたから、気分が悪いのかも。
私だって宮内部長と白坂先輩が一緒にいるところを見ると、それだけでモヤモヤするもん。
きっと同じ気持ちになるはず。
……私が嬉しい時に、白坂先輩は悲しいんだ。
でも私だって。

「はぁ」

自戒を込めてタンコブを押す。
……もしかしてあの時見ていたのかな。
だから私にタンコブがあることを知っていたのかも。
変な噂が広がったのも翌日だった。

「複雑だなぁ」



それでも譲れない想いが、恋なのかな。