「では根岸部長。俺は製造の様子を確認したので戻りますね」
「お?そうか……」

うわぁ宮内部長、私を身代わりに……。
でもオフィス内でも一番忙しそうだから、仕方ないか。
肩を離してくれない根岸部長に瞼を下ろしていると、腕をグッと引っ張られた。

「ほら、田代も行くぞ」
「え?わっ!」

宮内部長は私の手から強引に書類を取り、根岸部長に押しつけた。
あれよあれよと腕を引かれ工場を出る。

助けてくれた……?

目をぱちくりしながら首を傾げていると、宮内部長がクスクスと笑い出した。

「根岸部長にはあのくらい強引じゃないと。仕事に戻れないからね?」
「あっ、ありがとうございます!」
「どういたしまして。総務部は慣れた?」
「あ、……いえ。あの、えっと」

何言ってるんだ、私。
せっかく話しかけてくれたのに、緊張して上手く話せない。
これじゃ嫌われちゃう、っていうかもう嫌われたかな!?
いや、そもそも嫌われていたかも。
口ごもったまま俯いて歩いていたら、柱に衝突してしまった。

「……田代、大丈夫?」
「いっ、いたた」
「ククッ、田代はいつも緊張しすぎなんだよ。もう少し肩の力抜いて、ね?」
「…………はい」

トンと肩を優しく叩かれ、ニコッと笑う宮内部長が私を覗き込む。

私は衝撃でずれた眼鏡を直して、オフィスへ戻る宮内部長の背中を追った。