翌日。
私は大変なことになっていた。



総務部の田代美琴は、女好きと噂されていた営業部の平出部長と佐々木先輩に二股をかけ、終いには宮内部長に言い寄っているらしい。



「大人しそうな顔して……」
「確かに最近よく喋ってたし」
「急に雰囲気変わったよね」

どこにいても白い目で見られ、ヒソヒソと囁き声がする。

この私が、二股なんて。
男の人と付き合ったこともないのに。

でもそんなこと、信じてくれる人なんていない。


昨日、私が帰る時まではこんなことなかったはずなのだけれど……。
宮内部長と給湯室からオフィスへ戻り、残業のない私はすぐに帰ったのだ。
その時会った人とは普通に挨拶を交わしたし、顔見知りではない工場の人でさえ「お疲れ様です」と言えば返してくれた。

朝は、……今思うとすでに何人かは私を避けていたかもしれない。
そして10時休憩にはもうこの状態で、大半は目も合わせてくれず、合ったとしてもわざとらしく逸らされてしまった。
白坂先輩からは「田代さんにはガッカリしたわ」と幻滅されてしまうし。
仕事中も私を非難する不特定多数の視線が気になりミスを連発。
普段から親しい人もいないことが仇となり噂はどんどん広がっていき、お昼休憩の頃には面白いほど膨れ上がっていた。

「ほら、あの子……」
「新入社員なのに態度悪いらしいよ」
「男には媚びてんのにね……」

…………っ。
すれ違った数人の人だけでこれなら、皆が集まる食堂はもっと酷いだろうな。
食堂に入る勇気もそこに居続ける勇気も出ず、トボトボとオフィスへ向かう。
前を見て歩かなきゃいけないのに、足元しか見れなかった。
せっかく笑顔で頑張ろうと意気込んでいたのに。
素敵な女性を目指すどころじゃないよ。
俯いてばかりの、前の私に、戻っちゃった。

なんでこんな噂が…………。
何の関係もない平出部長や佐々木先輩にまで迷惑をかけて、どう謝ったらいいのか。


宮内部長も……。



私、嫌われたかな。

涙を堪えながらオフィスのドアを開けると、あろうことかあの二人と鉢合わせする。

「あ、田代」
「田代さーん!」

「…………みっ」

宮内部長と佐々木先輩!
今一番顔を合わせづらい人達。

「あ、あの。私のせいで、すみませんっ!」

顔をまともに見ることもできず、とにかく勢いよくただ頭を下げた。