……食べるのかな?
食べるよね。

行くのかな?
……行かないで。


白坂先輩が渡したパン、案内すると言っていたパン屋さん。
部長がパンを好きなこと、どうして知っているのかな。

モヤモヤしたこの醜い気持ちは何なのか、可能ならシュレッダーに粉砕してほしいくらいだった。
退勤前にカップを回収していると、ファイルを開きながら優しく微笑む宮内部長とそれを覗き込む楽しそうな白坂先輩が目に入る。
オフィスの角で親しげに会話していて、ゴクリと息を呑んだ。

「私って本当ドジで。すみませんでしたぁ」
「あぁ、これなら大丈夫」
「良かったぁ」
「白坂は要点を見極めるのは上手いんだから、気を抜かずに最後まで丁寧にな。前から思ってたんだ」
「えっ!ずっと見られてたなんて恥ずかしいです」
「いや、そういう意味ではなくて……」

二人の距離が、凄く近い。
悔しいけれど、端から見ると本当にお似合い。
白坂先輩がそっと腕を絡め始めて、もうとても見ていられずオフィスを出た。


私だけのあなたでいてほしいなんて、おこがましいよね。
悲しみに暮れて力任せにガチャガチャとカップを洗い片付ける。

そうだよ、皆に優しい宮内部長。
部長はパンが好きなだけ。
私は特別なんかじゃない。
優しくされるたび、どんどん欲張りになってしまう自分に言い聞かせた。



「早く帰ろ……」

布巾を干してガスの元栓をチェック。
給湯室を出ようとドアノブを握った。
でも握ったノブが凄く軽くて、驚くとともに勢いよくドアが迫ってくる。

「…………っ!!」

派手な効果音にくらりと歪み、激痛に目尻が濡れた。

「げっ!美琴!?っごめん」
「うぅっ……、宮内部長?どうしたん……っ」
「やべっ、ホントごめん!」
「むぐーっ!?」

…………今度はなに!?

ヨロヨロと頭部を抑えて悶える私を後ろから包み込んで口を塞ぐ。
部長の力強さにドキドキしていると、廊下から白坂先輩の声がして状況を悟った。

「宮内部長ーっ?あれー?さっきまでいたのに……」

水道の蛇口からちゃぽんと滴る音が狭い給湯室に響き渡る。

カツンカツンと鳴り響くヒールの音と、ドクンドクンと高鳴る心臓の音。
部長の心音が背中越しに伝わってきて、私も同調した。