3時にはシュレッダー作業を中断して、白坂先輩とお茶汲みの時間。

宮内部長はミルクと砂糖を一杯ずつ。
今までは皆と同じくブラックを出していたのだけれど、疲れてくると甘いほうが良いらしく残業のある夕方はもう少し甘めに作る。
なんとなく察する雰囲気で、いつも遠くから柔らかくなる表情を見守った。

「これ持ってくわよ」
「……ん?えっ」

あっ、まだ混ぜてないのに。
私が止めるより先に行ってしまった先輩を、スプーンを持って追いかけた。


「宮内部長、これ差し入れでーす」
「……え?」
「ほらこの間、パン好きだって言ってたじゃないですか!」
「あぁ、そういえば」
「ランチに出た時に買ってきたんで、食べてみてくださいよ。本当に美味しいんだから」
「いや、俺は……」
「今度案内しますね~!一緒に行きましょ」
「あ、おい……」

……パン屋さん?

それにしても素早くて、返事をする隙も作らない白坂先輩を凄いと思ってしまう。
私もあのくらい積極的だったらな。
部長は一緒に行くの……、かな?
灰色の煙が胸の中でモヤッと生まれて唇を噛んだ。
お昼に塗り直した淡い口元から漂うのは、ちょっと切ない初恋の香り。


「白坂さん強引だなー。でも司はパンなら大歓迎だろ」
「……大介にやるよ」
「えっ!?司がパンを人に譲るなんて何事!?」
「糖分ほしいんだろ?」
「でも白坂さんからだろ?それはまずいって。ねぇ、田代さん」
「あっ、は、はい」

ガシッと肩を抱き寄せられて飛び出ると、部長が目を丸くする。

「……いたのか」

ポロリと呟いた部長は、どこか気まずそうに私から目を逸らした。