うわー、凄い量。
しかも全部ホチキスで止まってる……。


のどかな昼下がり。
破棄と書かれたダンボール箱を会議室からオフィスに持ち帰り、コピー機やシュレッダーが構える印刷室にドンと置く。
印刷室といってもオフィスの一角。
経理や重要書類などのファイルを保管する本棚で仕切っただけのスペースだ。
中央にテーブルが置かれていて、プリントをまとめたり、たまに雑談する社員もいた。

「よし」

腕捲りをして作業を始める。
シュレッダーは壊れないよう紙は15枚まで、30分以上連続で使ってはいけない決まりがある。
量からして……、夕方までに終わるだろうか。

「あっ!田代さん。……シュレッダー使ってる?」
「佐々木先輩、私のは大量なのでお先にどうぞ」
「サンキュ。熱出てたんだって?具合もう良いの?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「俺に言ってくれれば手取り足取り看病してあげたのに~」
「……あはは」

からかわれてる……。
部長が意味を教えてくれたから、迂闊な返事はしないもん。
また大笑いされたら恥ずかしいし、なんとかやり過ごそうと俯いた。

『大介が言った手取り足取りって、こーゆーこと』

あの時の宮内部長、会社では絶対見れない艶っぽさというか、凄くセクシーだった。
あれも本当の部長?
……まさかね、私に教えるためだよね。
思い出すだけでドキドキする。
熱でボーッとしていたから耐えられたようなもので、普通なら失神するかも。

頬を染めながら恥ずかしさを払うようにホチキスの芯をブチブチと外していると、佐々木先輩が真面目な顔で覗き込んできた。

「そういえば田代さん、彼氏いないって言ってたよね」
「あ、はぁ」
「んじゃ俺とかどう?」
「はい?」
「付き合ってよ」
「え?」

思わず凝視したまま、キョトンとして首を傾げると佐々木先輩の頬が赤くなる。
それはほんの一瞬で。
私が深く考え込む前に、いつもの明るい先輩に戻ったのだけれど。

「やべー。田代さん可愛いから、ぎゅってしたい!」
「なっ……!もう、からかわないでくださいっ」
「からかってないよ。抱きしめてほしい時は言ってね~」
「あはは、大丈夫です……」

抱きしめて、かぁ。

もしも宮内部長にぎゅってされたら……、やだっ。
こんな妄想するなんて私、やっぱり変態。

あぁでも、あの時に抱き上げてくれた部長の香り、まだ覚えてる。
初めてのお姫様抱っこが宮内部長だなんて幸せすぎ。
王子様みたいだったなぁ。

「……はぁ」

窓から空を見上げて、溢れたのは耽美の溜め息。


「大介、こんなところで油売ってたのか」
「司ちゃん。愛の売り込みですよ」
「なに言ってんだ。取引先から電話入ってるぞ」
「りょーかーい」
「シュレッダーだろ?俺もあるからやっとくぞ」
「悪いな、よろしく」

ふわふわと浮かぶ雲を見つめるその間に、佐々木先輩と宮内部長が入れ替わっていたなんてつゆ知らず。
いきなり部長が目の前に現れて驚いて悲鳴を上げると、紙の束でパコンと叩かれた。

「失礼だな。……大介じゃなくて悪かったね」
「全然っ、そんなことないです!むしろ嬉しいです!」
「……え?」
「はっ、いえ。あの、佐々木先輩にからかわれるので……」
「ふーん?なにをからかわれてたの?」
「落とし穴があったらハマりたいようなことです」
「は?……まぁ、困ったら言えよ」

宮内部長は空になった手で、然り気無く私の頭を撫でて印刷室を出ていく。
撫でられたところを抑え、また空を見上げた。