「おはようございます、白坂先輩。昨日はご迷惑おかけしてすみませんでした」
「あぁ、いなくても別に変わらないから。気にしなくていいわよ」
「……はい」

早速、なかなか手厳しいです。
目線を合わせてもくれないまま、ピシャリと叩きつけられた。
朝が春でも、日中は冬を通り越して氷河期。

「でも、頑張ります!」
「なによっ」
「すっ、すみません」

つい声に出して意気込むと、訝しげに眉を寄せる白坂先輩。
私はめげずに自分の仕事に手が空くと、白坂先輩だけでなく総務部内の先輩に声をかけて、手伝いをしたり新しい仕事を覚えた。
声をかければ良くも悪くも何かしら応えてくれるもので、今まで気後れして避けていた自分に反省。
目標に向かって前向きになると、自然と笑顔が湧いてくる。
俯いてばかりだった私が、目を見て話せるようになってくる不思議。

「郵便物を配ってきます」

届いた封筒を持ち誰ともなく声をかけると、経理の先輩が手を上げた。

「あっ、田代さん。ついでにこの宅配便、社長までお願いしていい?」
「はいっ!わかりました」
「それとさっきの伝票整理、助かったわ。ありがとう」
「えっ!……いいえっ!」

荷物を預かりオフィスを出る。
ありがとうって言われた!
それだけのことなのに、なんだかやる気が出ちゃう!

「ふふ。嬉しいなぁ~」

荷物を見つめながら足取り軽く、社長室へ続く廊下の角を曲がったのだが、まさかそこで立ち止まっている人がいるなんて思いもせず。
誰かの背中へ、荷物の箱ごと衝突。

「うわ!」
「きゃっ!?すみませ……」

また、やってしまった。

「……あ、宮内部長っ!」
「お前は当たり屋か」
「すみませんっ!気をつけます!」
「前を見て歩けって言っただろ」
「……はい」

怒られた。
けど、宮内部長で良かった……。

顔を上げれば、世界は変わる。
私に足りなかったこと。
教えてくれたのは、あなたです。


「二人とも、本当に恋人じゃないのかい?」


「しゃっ、社長!?……っ」

いらしたのですか!
こ、恋人だなんて。
否定しないと部長に失礼だと思いつつ、今の私は否定するのが悲しい心理もあって。
言葉を失っていると、部長が荷物を指差した。

「田代、それ社長宛?」

「あっ!お届け物です」
「ありがとう田代さん。そうだ、悪いんだが会議室に置いてある書類のシュレッダーをお願いできるかな」
「はい、わかりました。失礼します」

「会社に落とし穴はないからな~」
「わっ、わかってます!」

くるりと背を向けると同時に、ワントーン高い声色を投げられ頬が熱くなる。
もう、宮内部長の意地悪。


「宮内くん。本当に、…………なの?」
「ははは。…………ですよ」

遠くで部長の笑い声がした。
恋人かぁ、なれたらどんなに幸せか。