~宮内部長の重要案件~



熱のせいか。
そうだな、熱があるから。
何をされても、のほほーんと笑っているんだろう。

じゃないと俺も、色んな意味で心が痛い。

もうずっと気だるげで熱っぽくて、とろんとした瞳で見つめられるので、長居は禁物。
またキスしたくなる。
こーゆーの、別に俺じゃなくても期待する。

「じゃ帰るよ」
「はい、色々とすみませんでした」
「ちゃんと熱が下がるまで無理しないように。復活したらまたパン作って」
「はいっ!」

突然ニコニコして、嬉しそうに返事をする美琴にドキッとした。

「疲れも溜まってたんだろ。今日は一日しっかり休めよ」
「えっ、平気です。仕事行きます」

俺も昔経験したけど、新入社員は休みずらい。
文句を言う上司もいれば、しっかり休んで取り戻せと言う上司もいる。
後者のほうが効率は良いと思うのだが。
まぁ今回に関してはそれだけじゃなくて、休んでほしいというのが本音。
ムカッとして、まだ火照る頬をつねった。

「いっ、いひゃい」
「へーそう?じゃご自由に。こんな顔で餌蒔いたら、大漁だろーね」
「え?……魚釣りですか?」

首を傾げる間抜けな女を、持っていたファイルでひっぱたく。
あの時、眼鏡を踏み潰した俺を殴りたい。

「フラフラしてまた大介に飛び込んでも、もう知らないから」
「えっ!?」
「大介なら喜んで助けてくれると思うよ。ほら、手取り足取り……」
「っ、それは嫌です」
「怖くないんでしょ?」

ニヤリと笑うと美琴は首を横に振った。
困った顔をして見つめ上げられるので、わしゃわしゃと柔かな髪を撫でる。

「俺も気が気じゃないから。あんまり心配させないで」
「…………はい」
「じゃあね」

玄関のドアを閉めて、まだ暗い空を見上げる。
あちこちで光る星が綺麗だった。

あー、これただの嫉妬じゃないか。

俺って一体どんな存在なの。
小難しい図面を理解できても、緻密な設計ができても、こいつの思考回路だけはわからない。

優しいお兄さんじゃねーぞコノヤロウ。
もう一回つねっとけば良かった。