「なにか食えそうな物は?近くにコンビニあったよな」
「あ、お腹いっぱいなので。大丈夫で……いたっ!?」
「ゼリーとか適当に買ってくるから、寝てろ」
「待っ、て……」

私を部屋に下ろすと、部長はバタバタと出ていってしまう。
大丈夫だと言おうとしたのに、すかさずデコピンをされた。
じんわりと額の一点が痛み涙をこらえる。
フラフラしながら着替えをして、布団に潜り丸くなった。

私、迷惑ばっかりかけてる……。
だから昼間も部長は呆れてたんだ。
初めて男の人を好きになったのに、これじゃあんまりだよ。
恋の仕方もわからない、例えるならば私は過発酵した不味いパン生地。

切なさと悔しさにうなされながら、うとうとと眠りに落ち始めた。

きっと、もうすぐ帰ってくるのに。

……ほら、玄関のほうでガサガサと袋の音がする。
冷蔵庫のドアが閉まる音。
部長の、足音。

そうして。
ひんやりとした掌が、わずかに額の熱を吸い取った。

「みや、うち……ぶちょう?」
「あ、ごめん。起こした……?」
「……呆れて、ますよね」
「本当に」
「ごめんなさい……」
「ずっと具合悪かったんだろ?何度も聞いたのに。そんなに俺に頼るのは嫌ですか?」
「……だって、迷惑かけたくない、です」
「迷惑だなんて思ってないよ」
「部長は、面倒見が良いから……」
「ただの上司がここまでするかよ」
「……?」

よくわからなくて、虚ろなまま瞳で問うとフイッと顔を反らされた。

「そんな目で見るな」
「でも、宮内部長を見ると、安心します」
「……っ」
「優しくて、怖くて、ドキドキします」
「だからお前!そういうこと……っ、はぁ。本当ややこしいやつ」

溜め息を吐いた部長は、私の頬をむにむにと摘まみだす。
眉を寄せて唸るとその指先が髪を撫で始めて、心地好い睡魔を誘った。

「熱が下がったら要指導だな」
「……」
「美琴?」

目蓋が重すぎて、上がらない。
意識も、沈んでいく。

「ぶちょ……」
「あんまり煽るなよ」
「……」

「俺、良い人じゃないって言ったかんな」

「…………ん」



どこまでが現実で、どこからが夢なのかわからない。
宮内部長が私を包んで、キスをする、夢を見た。


この恋が、美味しく焼き上がるわけないってわかってる。


優しくて、ほろ苦い、キスだった。