うるさい胸の鼓動に、まだ恋の病な気がしてならないけれど。
宮内部長の車にお邪魔する。
一人で乗り込むなんて、なおさら緊張して破裂しそう。

ふっと息を吐いて眩しい夕陽に顔をしかめる。
落とした視線の先には、封を切っていない煙草の箱とコンビニのレシートが小物入れに押し込んであった。
宮内部長、煙草吸うんだ……。

見たことのない彼の姿を想像しては、火照った溜め息を溢す。
近づくほどに新しい彼を知り、どんどん惹かれていく。

息が、苦しい。

こんなに膨らんだ気持ち、押し込められるわけないよ。
一度作り始めたら止められない、まるでパンのよう。

「……ちょっと疲れたかも」

部長が来るまで、と。
バッグを抱き締め、重い目蓋を下ろした。





「美琴」

「……あ、れ?」
「起きたか?」
「え!?すみません、寝ちゃってた……!」
「いや、俺も少し時間かかったから。悪かったな」

キョロキョロと辺りを確認すると、いつの間にかアパートの駐車場。
気づくと私には、今朝返したばかりのカーディガンが被せてあった。

「あっ、ありがとうございました!」
「暗いし一緒に行くからちょっと待っ……」
「大丈夫です!本当にご迷惑をおかけして、すみませんでしたっ」

これ以上迷惑かけられない!
勢いよくドアを開け地面に足を着くと、力が入らずにカクンと膝が折れる。
冷えたアスファルトに座り込んで喫驚した。

「えっ!?えぇ?」
「お前バカだろ」

私はパニックにでもなっているのか、ぐるぐると目が回りまともに立つこともできない。

「なんで……?」
「お前の『大丈夫』は、あてにならないな」

車から下りてきた部長が、怖い顔で私を見下ろす。
それはついさっき見たばかりの鋭い眼差しで。
ドキリとして息を呑んだ。

肩にふわりと落とされたカーディガンは、私の使う洗剤の匂いと部長の香りが混ざり合って、頭がおかしくなりそうだ。
俯くと同時にぐわんと大きく体が揺れる。

「きゃっ!?」

カーディガンのほのかな香りよりも衝撃的に感じる、メンソールの爽やさとふわっと香る深みある優しい柔らかさ。
私なんかよりももちろん大きな体で、力強い腕にヒョイと抱き上げられた。

「だだだ大丈夫です!歩けます!」
「少し黙ってろ」
「そういうわけにはっ!部長っ!」
「うるさいなー。俺は今、手が使えないんだよ。口で塞いでやろうか?」
「…………。」

それもいいかも、なんて。



私はそうとう、重症らしい。