私、何か変なこと言ったのかな……。
あんなに笑われるなんて。
部長は呆れていたんだよね。


お昼になりカップを片付けると、食欲もなくオフィスへ戻る。
ほとんどの社員が食堂や外へランチに出ている中で、宮内部長と佐々木先輩はパンをかじりながら仕事をしていた。
倉庫でのことを思い出し、見つからないようコソコソと自分のデスクへ。
夕方は西陽に悩まされるけれど、この時間は日当たりが良くて気持ちいい。

ぼんやりとした頭で、窓の向こうの建物の隙間から見える空を眺める。
まどろんでいると二人の会話が聞こえてきた。

「司のほう納期まだだよな?」
「知らん」
「え。少し余裕あるだろ?」
「ない」
「ちょっと手伝っ……」
「やだ」
「……なんか宮内部長冷たいんですけど」
「うるせ」
「そんな怒るなよー。メロンパン一個くらいで」

……メロンパン?

「絶対許さねー」
「今度買ってくるからさ」
「そういう問題じゃない」
「この図面、面倒でよー。頭使いすぎて糖分欲しかったんだよ」
「フン」
「美味かったなぁ~」
「だろうな!」
「だからゴメンって。もう勝手に食べません」
「当たり前だ」

……部長のメロンパン、食べられちゃったみたい?

「はぁ疲れた!飲み物買ってくる。司は何か飲む?」
「コーラ」
「了解でーす」

あんなに怒るなんて……。
今朝渡した時も楽しみにしてたもんね。
佐々木先輩が出ていった後、私は自分のメロンパンを持って部長に話しかけた。

「宮内部長」

「おぉっ!?……いたのか。もしかして聞いてた?」
「あの、これどうぞ」
「……なんで。食べないの?」
「はい。私お腹いっぱいで、もしよければ」
「まじ?」

あ、凄い嬉しそう。
クスリと笑みを溢すと睨まれて、私は口元を隠した。

「笑うなよ」
「ごめんなさい。そんなにメロンパン好きなんですか?」
「……まぁ、そんなとこ」
「ふふ。じゃあまた作りますね!」
「あ、大介が美味かったってさ。良かったじゃん」
「でも、部長のために作ったから。宮内部長に美味しいって言ってもらいたいです!」
「…………あ、あぁ」
「あっ!えっと、美味しくなければ不味いって遠慮なく言ってください。では失礼しましたっ」

やだもうっ、つい大胆なことを!
椅子に足をぶつけながら逃げるように部長から離れる。
「美琴」と呼ばれて振り返ると、一粒の光が降ってきた。

「わっ!」
「ナイスキャッチ」
「……飴?」

「ありがとな」

部長の満面の笑顔にパチッと目が冴え、惚けた頭は正気を取り戻す。
コーヒー味の飴を口に放り込み、午後も頑張ろうと意気込んだ。