パンを食べて一息吐くと、車で二十分ほどの距離にある眼科へ連れてきてもらった。
さすがに弁償は私の気が進まないので、なんとかお断りさせてもらう。
部長も腑に落ちないみたいだったけれど。

「ありがとうございました」
「俺、一度帰って着替えたらまた来るな」
「えっ?電車で帰れるので大丈夫ですよ」
「いや、迷惑かけたし送迎くらいさせてよ」
「でもせっかくの休みなのに……」

いつも残業で遅いから、休日くらいゆっくりしたいんじゃないかな。

「そこは気にするな。じゃ、後でな」
「あっ……」

私を眼科の入口まで送ると、ポンと頭を叩き帰ってしまった。

「……優しい」



休日の眼科はなかなか混んでいて、待っているだけでも頭痛ものだった。
ぼやけた視界に目が回ったり、躓いたりぶつけたり。

残念なことに視力が落ちていたため、眼鏡は新しく作り直すしかなく……。
しかも引き渡しは一週間後。
コンタクトレンズなら在庫があるそうで、会社もあるのに見えないままではいられず、勧められるががままソフトレンズを購入した。

初めての感覚にフラフラしながら眼科を出ると、近くで待っていてくれたらしい宮内部長が、私を見て驚いた顔をする。

「すみません。凄くお待たせしてしまって……」
「そんなことより眼鏡は?」
「あ、なんか一週間かかるそうです。コンタクトデビューしてしまいました」

苦笑いしながら部長を見ると、その姿に胸が高鳴る。

初めて見る私服に、襟元から見え隠れする鎖骨。
いつもは長めの前髪で隠れている額が多めに見えると、大人っぽさが押し出されてどこか知らない人みたい。
そして衝撃だったのが、優しいと思っていた目元が本当は少しつり上がっていたこと。
悪戯に笑う時だけかと思ってた……。
うあぁっ、もう見れないっ!

休日の部長は刺激が強いです。


分厚いレンズを失った私が手に入れた、クリアな視界に目眩がしてくる。
車に戻るまで、なるべく自分の靴を見続けた。

「はぁー」

「どうした?」
「はいっ!?」
「なんでずっと下向いてたの?」
「み、見えすぎて、辛いです……」
「は?」

部長がカッコ良すぎて、眩しいのです。